下請企業の事故
元請の責任
建設現場などの事故の場合、労災であることは立証が容易ですが、2次・3次と下請関係が複雑に絡んでいることが多いです。
実際に、元請、下請、被災者が、その業務災害にどの程度責任を負っていたかによって、責任の割合が判断されます。
中島興業・中島スチール事件 名古屋地裁 平成15.8.29
下請会社が倒産した後、元請がその従業員を引き続き就労させている中で、荷崩れによる負傷事故が発生した。
クレーン技能資格等の有無を確認せず作業に従事させ、安全教育、注意、指導等を行っていない安全配慮義務違反があったとして、使用者(元請)の損害賠償責任が肯定された。
労働者にも、不注意な操作を行った点に過失があるとして、過失割合を3割とした。
質問:
建売注文住宅の建築・販売をしている会社に勤める者です。
住宅の建築工事のときに、下請の業者さんに発注した工事で、その下請け業者の方(○○工務店の社長)が、負傷して入院しました。
このような場合、元請である当方の労災なのか、それとも下請けの労災で治療するべきなのか、どちらなのでしょうか。(元請、下請ともに労災の適用事業所です)
また、このような場合は、労災の「有期事業の一括」に相当するのでしょうか。
回答:
社長が「個人事業主」なのか「法人の代表者」であるのか不明ですが、どちらの場合であっても労働者災害補償保険法の適用対象労働者ではありません(特別加入の承認を受けていれば別ですが...)から、労災は使えません。
従業員であれば、元請の労災を使います。
また特別加入されていれば、下請け、元請けどちらの場合でも、特別加入されている労災番号を使うこととなりますので、下請けの労災で処理されます。
「有期事業の一括」と「請負事業の一括」
「請負事業の一括」とは、建設事業が数次の請負によって行われる場合に、元請負人のみを事業主とし、下請事業はこれに一括されて処理されますが、これは合理的な労災保険料徴収の方法を役所が決めたものであって、「適用対象労働者でない人を適用対象労働者として取り扱う」と言っているのではありません。
「有期事業の一括」とは、請負金額が消費税込みで1億9千万円未満の工事については、個々に保険関係を成立させないで一括して一の事業とみなして処理できることとなっています。
一般注文住宅であればこれに該当すると思われます。
社長には、国保を使って治療を受けてもらうことになると思われます。
国保は問題ないのですが、健康保険の場合、業務上のけがは、適用されません。
特別加入されていない場合、全額自費で治療するとういことになりかねません。
負傷の程度が重い場合は専門家(社会保険労務士)に相談されたほうがいいです。
質問1:
大工の一人親方としていくつかの現場を請け負っているDさん。
Rという現場で足場から転落して負傷してしまった。
一人親方ってそもそも労災法上、どういう扱いになりますか?
回答1:
一人親方とは労働者を使用せず、(1)旅客又は貨物運搬、(2)建設、土木、解体、(3)漁業、(4)林業、(5)医薬品配置販売、(6)再生利用目的の廃棄物の収集・運搬・解体等の事業を行っている者をいいます。
一人親方の場合には、労災保険ではなく、特別加入制度の対象となります。
質問2:
この事故の場合、誰が事業主? 労災として申請できる条件は?
回答2:
Dさんの場合、特別加入手続きをしていれば補償を受けられます。
加入手続きをしていなかった場合でも、すぐあきらめることはありません。
Dさんの実体的な労働者性が証明できれば元請け会社の保険を使って請求は可能です。
Dさんの仕事の請負先の大半が同一の元請けであるかどうかをよく吟味しましょう。
綾瀬市シルバー人材センター事件 横浜地裁 平成15.5.13
センター側は、高齢者である会員に対して就業の機会を与えるにあたっては、社会通念上当該高齢者の健康を害する危険性が高いと認められる作業を内容とする仕事の提供を避止し、もって当該高齢者の健康を保護すべき信義則上の保護義務(健康保護義務)を負っており、原告の自動車部品加工工場での受傷につき、1,620万円を支払わなければならない。
大町市・北アルプス広域シルバー人材センター事件 長野地裁松本支部 平成16.2.25
会員の負傷事故につき、会員の従事すべき仕事に含まれていない業務での被災に、大島市、センターの賠償責任を否定。