労災の認定基準


労働災害として認定される業務災害とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害または死亡をいいます。

業務上か、業務上外かは、2つの要件に基づいて判断されます。

それは、「業務遂行性」と「業務起因性」です。


業務遂行性

業務遂行とは、使用者の指揮・命令の下に、所定の就業場所で所定の修業期間中に働いていることはもちろん、一般に労働関係の下で通常予想される行為をしていることを意味しています。

例えば、以下のようなことは、一般に業務遂行性があると考えられます。

  • 所定の就業場所で所定の就業時間中に働いている場合
  • 作業の準備中、後始末中、作業開始前の待機中などの場合
  • 用便、飲水などの生理的な必要行為によって作業を中断している場合
  • 事業場施設内における休憩時間中の場合
  • 事業主の特命はなくても、自らの判断で、業務に伴う合理的な行為、必要行為、火災・天災などのときの事業場施設の防護作業及び同僚労働者の救出作業などの場合
  • 出張途上の場合
  • 通勤途上で事業場専用の交通機関を利用している場合

業務起因性

業務起因とは、業務に就いていることによって発生したということです。

つまり、「その業務に就いていなければ、この負傷は生じなかったであろう」と認められ、かつ、「そのような業務に就いていれば、このような負傷を生ずる危険があるだろう」と認められる場合をいいます。

関連事項:労働災害の認定基準

これらをより厳密に定義すれば、業務災害とは、業務が原因となった災害であって、業務と傷病等との間に一定の因果関係があるものをいいます。

状況 業務災害となる場合
作業中

「反証事由」がない限り基本的に業務災害

※反証事由とは、仕事と関係ない私的行為(療養のために通院途上の事故など)・業務逸脱行為(営業員が業務時間中、パチンコなどをしている最中の事故など)をいう。

※ただし、反証があっても事業場施設の欠陥等と共同(相互に関係する)して災害が発生すれば業務災害

作業の中断中
作業に伴う必要または合理的行為中
作業に伴う準備行為・後始末行為中
緊急業務中
休憩時間中 事業の施設または管理上の欠陥によるもののみが業務災害
(例)
・社員食堂での食中毒
・帰宅するため事業場構内を通行中に、腐食したどぶ板に落ちて負傷
事業場施設利用中
事業場施設内行動中
出張中 出張中は包括的(出発から帰着まで)に事業主の支配下にあるため、積極的な私用・私的行為・恣意行為等いわゆる業務起因性の反証事由で発生したと認められる場合の他は、業務災害
通勤途上 事業主の提供する専用の通勤バス等の利用に起因するけがは業務災害
突発事故等のため、使用者の特命により休日出勤、休暇取消の業務命令に基づく出勤途上のけがは業務災害
運動競技出場中 運動競技会に労働者を出場させることが事業の運営に社会通念上必要と認められ、かつ事業主の積極的特命があるものに限り業務災害

出張業務の遂行については、その用務の時間的、場所的な事情により、事業所に寄らないで自宅を出て用務を果たし、また自宅へ帰ることが是認されている場合には、自宅を出てから自宅へ帰るまでが出張途上にあるものと考えられる。

(昭和34.7.15 基収2980号)


業務災害と認められない場合

事業主の支配・管理下で業務に従事している場合

  • 労働者が就業中に私的行為を行い、または業務を逸脱する恣意的行為をしていて、それが原因となって災害を被った場合
  • 労働者が故意に災害を発生させた場合
  • 個人的なうらみにより、第三者から暴行を受けて被災した場合
  • 天災事変によって被災した場合(ただし、天災事変に際して災害を被りやすい業務の事情があるときは、業務災害と認められます)

事業主の支配・管理下にはあるが、業務に従事していない場合

休憩時間や就業時間前後に事業所施設内にいる場合が該当します。

この場合、実際に業務に従事しているわけではないので、行為そのものは私的行為であり、当該私的行為によって発生した災害は業務災害とは認められません。

しかし、事業場の施設・設備や管理状況などがもとで発生した災害は業務災害になります。

事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合

出張や社用での外出など事業場施設外で業務に従事している場合が該当します。

事業主の管理下を離れているものの、事業主の命令を受けて仕事をしているわけですから事業主の支配下にあります。

このような場合、仕事の場所はどこであっても、積極的な私的行為を行うなど特段の事情がなく、業務災害について特に否定すべき事情がない限り、一般的には業務災害と認められます。


療養の必要がない程度の場合

療養する必要もないほどの災害については、補償対象となりません。

障害が残っても、療養の必要がない程度であれば、原則、障害補償はありません。


労働者の犯罪行為によって事故が発生した場合

労働者が故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡またはその直接の原因となった事故を発生させた場合、保険給付は行われません。

また、労働者が業務中に、労働安全衛生法や道路交通法等における罰則付きの条項に違反して事故を発生させた場合は、保険給付の一部が支給制限されます。

支給制限は、3年以内、給付額の30%です。

療養中の労働者が、医師や労基署の指示に従わず、病気の回復を妨げた場合なども、支給制限が行われます。この場合は、事案1件につき、休業(補償)給付、傷病(補償)年金の給付が10日分減額されます。


労働者性が認められない場合

中小企業の経営者や一人親方等は、労働者ではないので労災保険は受けられません。

ただし、委託契約や請負契約であっても実態が労働者である場合は、形式的な契約書ではなく、実態で判断します。

関連事項:労働者性


不正による受給であることが発覚したとき

故意などによる不正受給の場合は、受給者はもちろんのこと、事業主に対しても連帯責任が課され、費用徴収を行うことができるとされています。

医師等が不正に荷担した場合も同様です。


ページの先頭へ