通勤災害の適用

通勤災害の適用条件(労災保険法第7条)

「通勤」とは、就業に関し、次に掲げる移動を合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとされています。

(1) 住居と就業の場所との間の往復
(2) 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
(3) (1)に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(いわゆる単身赴任者の住居間の移動)

(3)の要件としては、転任に伴い、転任直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが困難となったため住居を移転した労働者であって、やむを得ない事情により、転任直前の住居に居住している配偶者(同居出来ないと認められる事情にあるものに限る。)、子(在学している18歳までの子等であって配偶者のないものに限る。)、父母又は親族(要介護状態にあり、当該労働者が介護していた者に限る。)と別居することとなったものとされています。

往路は出勤であることが必要です。復路は就業後の帰宅目的でなければなりませんが、就業途中の退社でもよいとされています。

合理的な経路を、合理的な方法による往復であることが必要です。

したがって、無免許運転による通勤等の場合は、通勤災害保護制度の対象となる通勤には該当しません。

業務としての要素が強い場合は、業務災害として保護されます。


業務災害と同一の給付が受けられる

通勤災害とは、労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害または死亡をいいます。

通勤災害の場合の給付は、業務災害と同一で次のとおりです。

  1. 療養給付(療養の現物給付または現金給付)
  2. 休業給付
  3. 障害給付(障害年金、障害一時金)
  4. 遺族給付(遺族年金、遺族一時金)
  5. 葬祭給付
  6. 傷病年金
  7. 介護給付

途中で「逸脱」すると認められなくなる

「通勤」とは、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路および方法により往復することをいいます。

通勤手段は社会通念上合理的だと認められればよく、公共交通機関でなければならないというような限定はありません(マイカー通勤などでも合理性が認められればよい)。

往復の経路を逸脱し、または往復を中断した場合には、逸脱または中断の間およびその後の往復は「通勤」とはなりません。

ただし、逸脱または中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由(例えば、日用品の購入や病院・診療所で診察や治療を受ける場合など)により行うための最小限度のものである場合は、逸脱または中断の間を除き合理的な経路に復した後は再び「通勤」となります (労災保険法第7条3項但し書き)。

逆に、帰宅途中で飲酒をするなど、通勤の経路上で通勤とは関係のない行為をすると、そこから先は通勤と見なされなくなります。

札幌中央労基署長(札幌市農業センター)事件 札幌高裁 平成1.5.8

就業終了後徒歩で帰宅途中、夕食の材料を購入するため、自宅とは反対方向約140mの地点にある商店に向かう途中、40m地点で自動車に追突されて即死した。

遺族は、通勤災害の認定を申請したが、経路の逸脱中の事故だとして、不支給となった。審査請求・再審査請求も棄却された。

高裁も、この決定を支持し、敗訴・控訴棄却としている。

通勤上の往復の経路上でないことが、経路の逸脱と見なされた。

大河原労基署長(JR東日本白石電力区)事件 仙台地裁 平成9.2.25

職場外で行われた管理者会の会合及びそれに続く懇親会に参加した後の帰途における事故を通勤災害と認めた。

通勤の範囲

通勤の範囲

通勤扱いとされる行為

(1) 日用品の購入その他これに準ずる行為
(2) 公共職業訓練施設において行われる職業訓練、学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
(3) 選挙権の行使その他これに準ずる行為
(4) 病院または診療所において診察または治療を受けることその他これに準ずる行為
(5) 要介護状態にある配偶者、子、父母、配収者の父母並びに同居し、かつ、扶養している孫、祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)

通勤中のささいな逸脱や中断とされるされる行為

これらは、通勤災害保護制度の適用に影響はありません。

  • 経路近くの公衆便所の使用
  • 経路近くの公園での短時間の休息
  • 経路上の店でごく短時間のお茶やビールを飲む
  • 経路上で短時間手相や人相を見てもらう

また、これらの行為については、やむを得ない事由により、必要最小限度でなければなりません。


解雇制限はない

労働基準法第19条は業務上の負傷・疾病により休業する期間及びその後30日間並びに産前産後休業中の期間及びその後30日間は、解雇してはならないとしています。

しかしながら、通勤災害の場合、業務に起因する災害ではありませんので、この解雇制限は適用されません。

もちろん、だからといって解雇は自由にできるというわけではありません。


待機中の使用者の補償義務はない

業務災害の場合、休業給付の最初3日間の待機部分について使用者は補償義務を負いますが(労働基準法第76条)、通勤災害は業務上ではないので、この補償義務はありません。

関連事項:解雇


事業主の過失で給付額の一部が徴収されることがある

「事業主が故意又は重大な過失により生じさせた業務災害の原因である事故」に対して保険給付が行われたときには、政府はその給付に相当する額の全部または一部を事業主から徴収することができます。

この規定が適用されると被災社員に対する保険給付額の4割程度が徴収されます。

また、事業主が労災保険の加入手続きを怠っていた期間中に労災事故が発生した場合、遡って保険料を徴収する他に、労災保険から給付を受けた金額の100%又は40%を徴収されます。

労災保険の加入手続について行政機関から指導等を受けたにもかかわらず、手続を行わない期間中に通勤災害が発生した場合 事業主が「故意」に手続を行わないものと認定し、支給された保険給付額の100%を徴収
労災保険の加入手続について行政機関から指導等を受けてはいないものの、労災保険の適用事業となったときから1年を経過して、なお手続を行わない期間中に通勤災害が発生した場合 事業主が「重大な過失」により手続を行わないものと認定し、支給された保険給付額の40%を徴収

業務災害が増加するとメリット制適用事業については、労災保険徴収法12条3項の規定により、その事業の労災保険率が最高40%上がります。


労務管理上の重要性

通勤届の内容を正しくするように努力すること

届出と実態が食い違っていることが、多くあります。

就業規則を整備すること

通勤災害に関する取扱いを明らかにしておくこと

特に上積みの企業内補償制度がある場合は、定義や紛争処理制度等を整備すべきです。


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