診断命令に従わない時

診断書の提出拒否

労働者が診断書の提出を拒否するためには、正当な理由が必要です。

大建工業事件 大阪地裁 平成15.4.16

自立神経失調症の労働者を18ヶ月の病気休職期間満了後、診断書の提出を拒否したことから、就業規則所定の「精神又は身体に障害があるとか、又は虚弱、老衰、疾病のために勤務に耐えないと認められた者」に当たるとして解雇した。

解雇には社会通念上相当な合理的理由があるとし、地位保全等仮処分申立却下された。

裁判所は、会社が就労の可否の判断の一要素に医師の診断を要求することは、労使間における信義ないし公平の観点に照らし合理的かつ相当な措置であるので、従業員もこれに応じる義務がある、特に理由を説明することなく診断書を提出せず、通院先の病院ではない医師の証明書なる書面を提出したのみで、この医師への意見聴取も拒否し続けているいることなどから、解雇には合理的理由がある、とした。


産業医の診断拒否

個人は診察する医師を選択する自由を持っていますが、会社が産業医への受診を命ずることは、この自由とは別ものです。

あくまでも復職可否の判断は会社が行うもので、その際には産業医等の見解が参考にされます。

主治医が勤務可能との診断を下したことを理由に、会社の産業医等への診断の指示に背けば、状況は不利になります。

京セラ事件 東京高裁 昭和61.11.13

原告は脊推間軟骨症等により休職期間満了で退職となった。これが不当労働行為であるという訴え。

会社は会社指定医師の診断を命じたが、原告は拒否していた。

裁判所は、原告が指定医の受診を拒否し続けたため、会社が復職の望みがない場合にあたると判断したのは相当であって、退職扱いしたとしても不当労働行為には該当するとはいえない、と判断した。

改めて専門医の診断を受けることを求めることは、労使間における信義則ないし公平の観点に照らし合理的かつ相当な理由のある措置であることから、就業規則等にその定めがないとしても指定医の受診を指示することができ、従業員はこれに応ずる義務がある。

電々公社帯広事件 最高裁 昭和61.3.13

頸肩腕症候群と診断された原告の症状が好転しないため、公社は精密検査を受けるよう業務命令を発した。

原告は公社が指示した病院が信用できないとして、これを拒否したため、戒告処分となった。

最高裁は、精密検査の受診義務は、職員自らの持つ医師選択の自由を侵害するものとは異なるとして、戒告処分を有効とした。

会社の就業規則などに会社指定医の診断を受けることが義務付けられていない場合であっても、解雇か否かの最終判断は会社側に委ねられていますので、会社が最終判断の確信を得るために、会社の指定する医師の受診が必要だと判断した場合は、会社は当然にその受診を求めることができます。

ただし、説得にあたっては本人が有する医療行為に関する決定の自由や本人の感情、プライバシーにも配慮したうえで、受診の必要性について丁寧に説明をするべきでしょう。


主治医からの意見聴取

なお、主治医に会って話を聞く場合には、まず休職者本人の承諾を得ることが必要です。

その際には、本人も立ち会って一緒に聞くという方法をとることが、医師としても後日のトラブルを避けることになり、話がしやすいとも考えられます。

また、医師に対して事情聴取に協力するよう、本人から話しをさせることも重要です。

主治医と産業医の意見が異なるとき

――それは、ケース・バイ・ケースでしょうね。最近の傾向ですと、特にメンタルヘルスの場合、主治医がどうしても本人に肩入れしてしまう傾向が否めないと聞きますし、実際に私もそのように感じております。そこで客観性を保つために、主治医の診断だけでは復職とか休職等の判断はできませんので、必ずその会社の指定する専門医の診断を受けさせる、あるいはその主治医のカルテ、いわゆる診療記録を本人同意のもとに全部開示してもらうと、それらを踏まえて総合的に判断し、それで最終判断を下すという規定が増えていると思いますし、実際、実務的にもそう動いているようです。

(弁護士の意見、産業保健21 2004.10)


ページの先頭へ