アスベストに起因する労災
長期間体内に残り、かなり経ってから発症
アスベストの繊維は、きわめて細いため、浮遊しやすく、吸入されやすい特徴があります。
いったん吸い込んでしまったアスベストは、通常は異物としてタンの中にまざり、体外に排出されます。
しかし、肺胞内に達したアスベスト繊維は、その形状から破壊・分解されにくく、長期間肺胞内に留まります。
アスベスト材そのものに毒性はありませんが、肺の中に残ったままになっていると、肺ガンや中皮腫、アスベスト肺(肺の慢性線維症)の原因となります。
このため、アスベストの使用は昭和50年代から、段階的に中止されてきました。
現在は、ほとんどの製品、建材に使われていませんが、かなり以前の暴露により健康障害が発症することが明らかになり、問題視されています。
また、古い建物の解体等の際にも、注意が求められています。
主な健康障害
アスベスト肺
粉じんを吸入することによって肺に生じた繊維増殖性変化を主体とする病変を肺線維症(じん肺)といいます。
特に、アスベストの暴露によって起きた肺線維症を特にアスベスト肺(石綿肺)と呼んでいます。
アスベスト肺については、原則として、都道府県労働局長によるじん肺管理区分の決定がなされた後に、業務上の疾病か否か判断されます。
アスベスト肺で、じん肺症(じん肺管理区分が管理4)またはじん肺管理区分が管理2、管理3若しくは管理4と決定された方に発生したじん肺法施行規則第1条第1号から第5号までに掲げる疾病(結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張炎、続発性気胸)は、労働基準法施行規則別表第1の2第5号に該当する業務上の疾病として取り扱います。
職業上アスベスト粉じんを10年以上吸入した労働者に起こり、潜伏期間は15~20年といわれています。アスベストの暴露がなくなったあとでも進行する場合があります。
労作性(坂道や階段を昇るとき)の息切れが比較的早期の自覚症状で、せき、たんが続いたり、胸や背中に痛みを感じることもあります。
なお、石綿肺に合併したじん肺法施行規則第1条第6号「原発性肺がん」については、労働基準法施行規則別表第1の2第7の7に該当する業務上の疾病として取り扱うことになっています。
肺ガン
アスベストが肺ガンを起こすメカニズムはまだ十分に解明されていませんが、肺細胞に取り込まれたアスベスト繊維の物理的刺激によりガンが発生するとされています。
じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上である石綿肺の所見が得られている等の石綿ばく露労働者に発生した「原発性肺がん」については、労働基準法施行規則別表第1の2第7号7に該当する業務状の疾病と取り扱うこととしています。
また、喫煙と深い関係にあることも知られています。
通常を1とすると、アスベスト暴露だけでは5倍、たばこだけでは10倍の肺ガンリスクがありますが、両方がそろうとリスクは50倍になるとされます(Hammondらの研究による)。
アスベストの暴露から肺ガン発症までに15~40年の潜伏期間があり、暴露量が多いほど肺ガンの発生が多くなっています。
悪性中皮腫
肺を取り囲む胸膜、腹部臓器を囲む腹膜等にできる悪性の腫瘍です。
肺、肝臓、胃などの臓器を取り囲む胸膜や腹膜等にできる悪性の腫瘍のことを「中皮腫」といいます。
じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上である石綿肺の所見が得られている等の石綿ばく露労働者に発症した「中皮腫」については、労働基準法施行規則別表第1の2第7号7に該当する業務上の疾病と取り扱うこととしています。
若い時期にアスベストを吸い込んだ人のほうが悪性中皮腫になりやすいことが知られており、潜伏期間は20~50年(およそ40年に発症のピークがある)といわれています。
最初の症状は、悪性胸膜中皮腫では息切れや胸痛が多く、悪性腹膜中皮腫では腹部膨張感や腹痛等で気付くことが多いです。
診断は、胸部レントゲン検査やCT、超音波検査、胸水や腹水の穿刺による細胞診断、さらに胸腔鏡や腹腔鏡等による組織診断に基づいて行われます。
良性石綿胸膜炎
胸膜腔内に浸出液が生じるもので、半数近くは自覚症状が無く、症状がある場合はせき、呼吸困難の頻度が高いといわれています。
「良性石綿胸水」については、胸水が消失せず遷延した場合、「びまん性胸膜肥厚」については、これが進展した場合、療養を必要とする肺機能障害等が引き起こされることがあります。
びまん性胸膜肥厚
アスベストによる胸膜炎が発症すると、それに引き続き胸膜が癒着して広範囲に硬くなり、肺のふくらみを障害し呼吸困難をきたします。
胸部レントゲン写真上胸膜の肥厚を認めるようになりますが、この状態をびまん性胸膜肥厚といいます。小さい瘢痕(はんこん)領域は、胸膜プラークと呼ばれます。
胸水及びまん性胸膜肥厚は、石綿ばく露以外の事由によって発生する可能性もあり、確定診断が困難な場合が多いこと、個々の障害の程度(必要な療養の範囲)も様々であること等から、個々の事案ごとに、業務上の疾病に該当するかどうかについて、判断することとなります。
アスベスト(石綿)災害の判例
ミサワリゾート(石綿家庭内曝露)事件 東京高裁 平成17.1.20
元従業員Aの子供であったBが死亡したのは、会社が石綿の危険性について従業員に徹底した安全教育を行い、従業員の家族が健康を害されることを防止すべき注意義務があったのにこれを怠ったためであるとの理由で、遺族らが損害賠償を請求した。
裁判所は、本件Bの死亡は、いわゆる悪性中皮腫(の疑いは強いものの)とは認められず、Aの石綿吸入等とBの家庭内曝露との間には相当因果関係が存在しない、石綿の家庭内曝露に関する国内外の論文の発表状況からして亡Aが石綿に曝露した時期に被控訴人が石綿の家庭内曝露の発生を予見することは極めて困難であったとして、安全教育などの措置を講ずべき被告の注意義務はなかったと、認めた。
健康手帳の交付
労働安全衛生法により、ガンその他の重度の健康障害を発生させるおそれのある業務のうち、石綿を製造し、または取扱う業務など一定の下記の業務に従事しており、一定要件に該当する方は、離職の際または離職の後に住居地の都道府県労働局長に申請することにより、健康管理手帳が交付されます。
健康管理手帳の交付を受けると、指定された医療機関または健康診断機関で、定められた項目による健康診断を決まった時期に年2回(じん肺の健康手帳については年1回)無料で受けることができます。
石綿作業従事者に対する健康診断
1) 健診の対象
- 特定石綿等を製造し、もしくは取り扱う業務に常時従事する労働者
- 製造禁止石綿等を試験研究のために製造し、もしくは使用する業務に常時従事する労働者
- 過去においてその事業場で、石綿等を製造し、または取扱う業務に従事したことのある在籍労働者
2) 健診の実施時期
- 雇入れ時または当該業務への配置替えの際
- 定期健康診断(6ヶ月以内ごとに1回)
3) 健診の項目
※一次健康診断
- 業務の経歴の調査
- 石綿によるせき,たん,息切れ,胸痛等の他覚症状または自覚症状の既往歴の有無の検査
- せき,たん,息切れ,胸痛等の他覚症状または自覚症状の有無の検査
- 胸部のエックス線直接撮影による検査
※二次健康診断
- 作業条件の調査
- 胸部のエックス線直接撮影による検査の結果、異常な陰影がある場合で、医師が必要と認めるときは、特殊なエックス線撮影による検査、喀たんの細胞診または気管支鏡検査
※上記の項目のみでは、ばく露した石綿等による身体への影響の有無を確定し得ない場合もあると考えることから、その場合には健康診断を行う医師が必要と認める項目(検査)を追加してさしつかえないこと。
4) 健康管理手帳による健診
石綿を製造し、または取り扱う業務に従事していた者で、上記の健診で両肺野に石綿による不整形陰影があり、または石綿による胸膜肥厚が認められた労働者は、退職後であっても健康管理手帳の申請を行うことができる。健康管理手帳保持者は,年2回,石綿に係る健康診断を無料で受けることができます。
また、じん肺管理区分が管理2の者は年1回肺がんに関する検査を、管理3の者はじん肺健康診断を受けることができます。
問い合わせ
厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課
TEL 03-5253-1111(代表) 内線 5495(健康診断について)
TEL 03-3502-6755(直通)
FAX 03-3502-1598
石綿被害、生前の療養費も補償へ 新法で厚労省方針
アスベスト(石綿)による健康被害で亡くなった人の家族が、遺族補償に加えて生前にかかった治療費などを支給するよう求めている問題で、厚生労働省は救済策を盛り込むため検討している「石綿新法」で、生前の治療費を補償対象とする方針を決めた。
労災認定を受けた場合、治療に要した費用は全額支給されるが、労災認定を受けられなかった人の場合は、自己負担となっている。
厚労省は「療養に要した経費など合理的なもの、他の制度との整合性がはかれるものは検討する」とし、自己負担分について遺族補償に上乗せする考えだ。
ただ、かなり前に亡くなった従業員の場合、治療にかかった費用の記録などがないことも想定されるため、個々に応じた実費なのか、一律の一時金なのか、などが今後の検討課題になる。
また、古い勤務先の記録などが残っていないケースも多く、賃金水準についてさかのぼって調べることは難しい。
そのため、厚労省は賃金に応じて支給される休業補償は難しい、とみている。
(asahi.com 2005.11.11)