うつ病への対処

こんな徴候から不適応状態でないかと考えてみる

身体的な症状

(1) 身体の不調の訴えが多い
(2) 不眠の訴えが続く
(1週間以上の場合。程度が問題であり、一時的な不安は誰でもある)

精神的な症状

(1) 仕事に対する責任感の低下
(2) 仕事能率の明らかな低下
(3) 細かいことにくよくよする
(4) 考えごとをしていることが多い
(5) 著しく口数が少ない
(6) 表情が乏しく、生気がない
(7) イライラ、セカセカしすぎる
(8) 気が大きくなり、よくしゃべり、自分の能力や権限以上のことを実行しようとする

行動面での徴候

(1) 遅刻、欠勤、早退などの勤怠状況が平均値より多い
(2) 早出、残業、休日出勤が平均値よりはるかに多い
(3) けがをすることが多い
(4) 不平不満が多く、しばしば上司に反抗する
(5) 不機嫌になるとごく細かいことに怒りやすく、乱暴をはたらくことがある
(6) さしたる理由もなく、職場転換を希望したり、会社を辞めたいと訴える
(7) 金使いが荒くなり、借金をよくするようになる
(8) 服装が極端にだらしなくなったり、目立つようになる

(神奈川県「働く人のメンタルヘルス相談室」 西原哲三相談員による)


こんな兆しがでてきたら部下の「うつ」を疑え

  1. 欠勤が増えてきた
  2. 会議での発言が減る
  3. 残業が増えた
  4. 簡単なことも決められない
  5. 仕事の能率が落ちた
  6. 遅刻するようになった
  7. イライラしているようだ
  8. 風邪をひきやすくなった
  9. 死にたい、辞めたいともらすことがある
  10. 目を合わせないようにする

(小田晋 筑波大学名誉教授による)


判断材料は行動観察

サザエさんシンドローム(サザエさんブルー)

日曜の夜やっているサザエさんを見て笑えたら健康ですが、明日から仕事だと思いながら気分が沈んでしまい、楽しめません。

朝刊シンドローム

ストレスが関与する病気の多くは、朝がつらいといわれています。このため出勤前に朝刊を読んでいても、集中できません。朝刊をぺらぺらめくっているだけになる(ぺらぺら症候群)こともあります。夕刊なら多少は読めるようです。朝方にどかんと落ち込んだ状態が14日以上続くようなら要注意です。

午前3時症候群

寝付きはいいが、午前3時か4時に目が覚めた後、全然寝られなくなります。ストレスがあって、それを考えると寝られないためといわれています。

Uターン症候群

会社に行きたいのに、会社に近づくとだんだん動悸がしたり、息苦しくなったりして、足がすくんでしまって会社に行けないような状態です。

自殺、月曜が最多 期待はずれの週末影響? 厚労省統計

自殺は月曜日が多く、週末に向かうにつれて減っていくことが、厚生労働省の「自殺死亡統計」で分かった。

過去最多となった03年の自殺者約3万2千人について、初めて死亡曜日・時間別の分析を行った。

欧米の研究などで、楽しい週末を過ごすはずだったのに期待はずれに終わった失望が影響しているとする「ブロークン・プロミス・エフェクト」という仮説があり、同省はデータを自殺予防対策に生かしたいとしている。

自殺予防統計は、99年に続き5回目。毎年公表している人口動態統計をもとに、死亡状況について分析した。

1日当たりの平均自殺者数は男性が64.1人、女性が23.9人。

曜日別では、月曜日が男性80.7人、女性27.3人でともに最多。土曜日は男性53.5人、女性21.2人でいずれも最少だった。

死亡時間別で見ると、男性は午前5時台(6.2%)がピーク。

うつ病患者は落ち込みが少し回復したときに自殺の危険性が高まるとされ、その時間帯に重なる。

女性では、子どもや夫を送り出して一人になる可能性が高い午前10時台から5%を超え、午後0時台(5.6%)が最多となっている。

(asahi.com 2005.1.29)


うつ病になりやすい人の性格

(1) まじめ、几帳面、他人任せにできない、いつも何にでも全力投球
(2) 職人気質:自分の能力の範囲ではきちんと仕事をする
(3) かたくなで、柔軟性に欠ける施行
(4) 否定的な世界観:過去、自己、未来の否定的な見方
(5) 二者択一的:白か黒か、100点か0点か、すべてをいっぺんに片付けようとする
(6) 優先順位の設定ができない
(7) 自尊心の低さ、完璧癖、対人過敏

(高橋祥友氏・東京都精神医学総合研究所による)

仕事熱心で、まじめではあるのだが、どこかに自分自身の能力に対する根深い不信感がある。

またそれを強く自覚しているだけに、何とかそれを克服しようとして、一生懸命に働き、物事を完璧に仕上げようとする。さらに、自分よりも他人の意向を優先したり、自分が他人にどのように評価されているかに異常なほど過敏なタイプ(上記、高橋氏)。


ストレスを背負いやすいタイプ

(1)働き者の優等生(メランコリー親和型)

  • 今日の仕事を明日に延ばせない、締切り厳守
  • 頼まれたら断れない
  • 上司の評価を気にする
  • 凝り性、完璧主義

(2)自己開示ができない人、弱みを出せない人

  • 「わからない、できない」と言えず仕事を抱え込む
  • 競争心が旺盛、ものごとを勝ち負け、優劣で判断

(労働科学研究所・鈴木安名研究員による)

裁判で主張されたうつ病の症状 (エージーフーズ事件 京都地裁 平成17.3.25)

身体症状・全身倦怠感

頻繁に頭痛、腹痛、下痢及び便秘等の症状。血尿。不眠(睡眠薬を飲んでも眠れない)の訴え。「しんどい」とよく口にするようになった。

ため息様に妙に息を吸い込む動作に終始するようになった。夜食として取っておいてもらった食事にわずかに箸をつけただけ。

「麺類しか喉を通らない。職場で何も食べられなくなった。おかゆを作ってくれ」と妻にいうことが多くなった。

「しんどい」と言って、入浴を避けるようになった。足下がふらついて転倒した。

焦燥感

常にいらだっているようになった。妻に八つ当たりするようになった。

カラオケの集まりで、自らは1曲も歌わず、時間延長の提案に対し「何時だと思っている。明日も仕事だ」と怒鳴った。

「打撲くらいで入院していられない」と言って、翌日無理に退院してしまった。

思考抑制・行動抑制・弱音

元気が無く、言葉数も極端に少なくなった。動作も緩慢になった。

「やりたくない営業の仕事をやらされている」と、めずらしく仕事のことで弱音を吐いた。「店長として自身をなくした」と言った。

出勤の際、家族に「行ってくるぞ」と声をかけることがなくなった。

関心の低下、関心野の狭窄・快楽感情の消失・うつ病性亜昏迷

いつも話題にしていたスポーツのことも話さなくなった。テレビも見ずに暗く硬い表情をしていた。

服装や髭にまったく頓着しなくなった。

呼びかけたが、呆然自失の状態で立ったままだった。

罪責感

「すまんなぁ、すまんなぁ」と言うばかりで会話にならなかった。


うつ病の人によくある認知の歪みの例

(1) 恣意的推論 単なる思いつきを信じこむ
(2) 二分割思考 いつも白黒をつけようとする
(3) 選択的抽出 自分の好みにあった情報だけを選ぶ
(4) 拡大視・縮小視 気になっていることだけを重大に考え、それ以外は無視する
(5) 極端な一般化 一事が万事と思いこむ
(6) 情緒的理由づけ 自分の感情状態から、現実を判断する
(7) 自己関連づけ すべて自分と関連づける

(林 公一氏による)


治療に専念させるよう配慮する

うつ病は、自殺の可能性があることを常に頭に置いて対処する必要がある。治療は、心理療法と薬物療法とがあります。

抗うつ剤はうつ病に対してたいへん有効ですが、効果が出るまでに時間がかかります。このため、当初は副作用(のどが渇く、便秘をするなど)が目立ちがちで、継続的な服用が大切だといえます。

また、抗うつ剤の適量はきわめて個人差が大きいので、医師の前で無理な「元気さ」を演じると、必要量が処方されなくなるおそれがあります。

うつの患者は「休む」ことそのものに罪悪感を感じる人が多いようです。

本人には仕事のことは一切忘れて治療に専念させることが大事です。家族に対しても同様の助言をしましょう。

本人には自殺行為は絶対に避けることを約束させ、必ず治る病気であることを根気よく話す必要があります。

また、十分に休息、睡眠をとるよう勧めましょう。

家族に告げていいか

まず本人に断りなく(雇用者が)家族に相談することができるか。

個人情報保護の見地から問題があるかということだが、個人のプライバシーに絡む微妙な問題ではあるが、使用者は雇用契約に付随する義務として従業員の健康等に配慮する義務を負っているのですから、当該従業員の家族に連絡するということは、係る義務を履行する手段の一つとして考えられる・・・。

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精神疾患患者がたとえ家族に伝えてほしくないと言っても、精神疾患患者の合理的意思としては、病気を早く治したい、あるいは人間関係を改善したい、ついては誰か自分を助けてほしいと考えているのだろうと思います。

そこで、家族へ連絡するということも当然、許されるのではないかと考えています。・・・

また、家族に連絡することによって、本人の生命・身体、あるいは周囲の者の生命・身体・財産の安全というのがはかられる、つまり自傷他害の危険を回避できるものであれば、それはやっていいだろう、むしろやるべきであろうと考えています。

(弁護士 深野和男 氏)


再発

部下の健康情報を伝えられた管理職は、通院を続けることの指導と時間管理をします。

うつ病は入院することなく、自宅療養で治るようになりましたが、再発することが多い病気で、職場復帰の半年以内に25%、2年以内に30%から50%が再発し、再発を繰り返す人ほど職場復帰が困難になります。

半年以内に再発するケースの多くは、治療の中断です。

うつ病の薬は風邪薬とは違って、予防の効き目もあるので、主治医が通院不要というまで受診を継続させる必要があります。


励ますことはタブー

うつ病の人に励ますことは、良くないといわれています。

激励すると、頑張っているのに更に頑張れといわれて、劣等感、無力感をもち、症状を悪くすることがあるからです。

「頑張れ」という元気づけは、燃料のない状態でアクセルをふかせることになるので、エンジンが燃え尽きることになります。

復職時の声かけが必要

善意ではあっても、「頑張れ」「いつまでも落ち込むな」などと励ますことはタブーといわれていますが、なぜでしょうか。

うつ病は、電池切れしかかった携帯電話のようなもので、バッテリーレベルの落ちた携帯を叩いて励ましても通話時間が伸びないのと同じで、生身のうつ病の人にとっては有害無益です。

この病気は、意欲、気力、生命力が枯れ果てているのであって、健康人の落ち込みとは根本的に違うため、根性では治せないのです。

励ますことは「今まで頑張り抜いてきたのに、これ以上やれとは、後は死ぬほかないな」という気分に追い込んでしまします。

ポイントは、心を込めたあいさつです。

職場復帰の朝、上司自らが「おはよう」と声をかけることが社員の安心感を与えます。

人間は本来、群れをつくって助け合わなければ生きていけない動物なので、群れに属していたいという帰属本能というものがあります。

「ご苦労」「お疲れ様」などというあいさつは、この帰属本能を満たします。

「3ヶ月もの長い間休んで職場に迷惑をかけた。でも課長はいつもどおりに自分を課の一員とみなしてくれた」と安堵するわけです。

――労働科学研究所 医師 鈴木安名 氏 (労災・通災・メンタルヘルスハンドブック 別冊労働判例 産労総合研究所より)

タイミングが必要

うつ病は励ましてはいけないと、よく言われます。

これは、だれがどのようなタイミングでいうかに、つきます。

「励ますな」ということは一般的には言えますが、一概に励ますことが悪いというのではありません。むしろ励ましが必要な場合もあります。

(東京経済大学経営学部教授・産業精神保健研究所長 島 悟 氏の講演から)

気落ちしていたようなので毎日電話で励ましたというのでは、静養するための環境作りにマイナスです。

定期的(1週間に1回程度)に病状を報告してもらえばいいでしょう。

また、ストレスがたまっている様子なので、お酒を酌み交わしながら語り明かすことなどは、歓迎できません。

うつ病に処方される薬はアルコールと併用できないものが多くあります。うつ病には睡眠による休息も重要です。

回復期に自殺が多いことにも注意が必要です。

社会復帰は「疲れたらベースダウン」が原則です。アクセルよりブレーキの重要性を繰り返し伝えましょう。

どこまでやれば良いかをはっきりさせ、それで十分であること、それ以上やらないことの意味や価値を話し合いましょう。


うつ病の職場復帰を拒む7つの要因

(1) 時代性 社会変化が加速化しており、「これからやっていけるだろうか」という不安を抱く。
(2) 職場の守秘義務の混乱 当人の「うつ」について、プライバシーの観点から他の従業員に開示できない。しかし、周囲の協力を得なければ、理解が得られない。
(3) 上司の対応の課題 上司としてはどう対応したらいいかわからない。上司の不安が本人に伝わる。休業中の部下に対し、あれこれ確認することが本人の負担を増す。「あたたかい無関心」が必要。
(4) 仕事そのもの 仕事の成果を求められ、自分でもそれを追求するが、結果が出ないと「敗北感」に支配される。
(5) 本人の行動特性 「だめじゃないか」と言われると、言葉を鵜呑みにして、背後にある励ましの気持ちを感じられない。「逃げてはいけない」「負けたくない」「自分は正しい」という美学を変えない。前進ばかりで、立ち止まって状況を判断することをしない。
(6) 家族 つい出社を促してしまう。
(7) 支援策との相性 専門家として、もう少し休ませた方がいいと判断しても、本人が復職を望む場合がある。これを関係者に理解させることは容易でない。

専門家の診断を促す

本人が専門家のところへ行きたがらない場合があります。悪い烙印を押されるのではないかと忌避する傾向が、日本ではまだまだ強いからです。

管理者が話しをするにしても、もっていき方には気配りが必要です。

例えば「最近、少し休みがちのようだけど、どこか具合が悪いところでもあるの・・・」あるいは「何か心配ごとや困ったことでもあるの・・・」「職場の仲間が、君のことを何か調子が悪そうだと心配しているが・・・」「最近少し元気がなさそうだけど、食欲や睡眠など、どんな具合なの・・・」などと話しかけて、本人から状況を聞き出すのがいいでしょう。

話し始めたら、徹底的に聞き役になってやり、話しているうちに自分自身で状態を自覚し、なんとかしなくてはと思うようにさせるのです。

迷っているようならば「一人で解決したいという気持ちは分かるけど、専門家と相談してアドバイスしてもらった方がいい結果が得られるかもしれないよ」と勧めます。


裁量労働は外す

裁量労働の人では、勤務時間の規律が保たれなくなるリスクがあるため、月単位で休業した社員の場合は、裁量労働制(専門業務型裁量労働制企画業務型裁量労働制)はいったん外す方がよいでしょう。

仕事の量は、6~7割の能力でもできるように抑え、達成後はきちんと評価し、自信をつけさせて、問題がなければ、1~2ヶ月ごとに、徐々に業務量を増やしていきましょう。


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