労働者の判断による離職
職場の事情に起因する離職
1.労働条件にかかる重大な問題があったため
賃金低下・賃金遅配・時間外労働等の労働条件に関して、重大な問題ががあったと労働者が判断したために離職した場合です。
(1)労働条件
被保険者が労働契約の締結に際し、事業主から明示された労働条件(以下この項目において「採用条件」という。)が就職後の実際の労働条件と著しく相違したことまたは事業主が労働条件を変更したことにより採用条件と実際の労働条件が著しく異なることとなったことを理由に、就職後1年を経過するまでの間に離職した場合が該当します。
この場合の「労働条件」とは労働基準法第15条および労働基準法施行規則第5条において労働条件の明示が義務づけられているもの(賃金、労働時間、就業場所、業務等)です。
ただし、事業主が、正当な手続を経て変更したことにより、採用条件と実際の労働条件が異なることとなった場合には、この基準には該当しません(他の特定受給資格者の判断基準に該当する場合(賃金や時間外労働の時間等)は、各々の判断基準で判断します)。
確認書類
採用条件および労働条件が分かる労働契約書や就業規則など。
労働協約による変更は労使が合意した書面、就業規則による変更は労働組合等の意見を聴取した事実が分かる資料など。残業時間超過の場合はタイムカード等
(2)賃金遅配等
賃金(退職手当を除く。)の額の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかった月が引き続き2ヶ月以上となったこと等により離職した者。
下記の1.または2.に係る事実があった最初の月から起算して1年以内に離職した場合(この事実があった後、通常の賃金支払の事実が3ヶ月以上継続した場合を除く。)が該当します。
- 現実にその月(賃金月)中に支払われた額(何月分であるかを問わない。)がその者が本来その月(賃金月)中に支払いを受けるべき額の3分の2に満たない月が2ヶ月以上連続した場合。
なお、支払われた休業手当等の額が、その者に支払われるべき賃金月額の3分の2に満たない月が継続して2ヶ月以上にわたる場合も該当します。 - 毎月決まって支払われるべき賃金の全額が所定の賃金支払日より遅れて支払われたという事実が2回以上連続した場合また、上記1.または2.の状態が混在し、2ヶ月連続した場合もこの基準に該当します。
確認書類
労働契約書、就業規則、賃金規定、賃金台帳、給与明細書、口座振込日が分かる預金通帳など
(3)賃金低下等
賃金が、当該労働者に支払われていた賃金に比べて85%未満に低下した(または低下することとなった)ため離職した者(当該労働者が低下の事実について予見し得なかった場合に限る。)
下記の1.または2.のいずれかに該当したため離職した場合が該当します。
- 離職の日の属する月以後の6ヶ月のうちいずれかの月に支払われる賃金と当該月より前6ヶ月のうちいずれかの月に支払われる賃金とを比較し、85%未満に低下することとなった場合
- 離職の日の属する月より前の6ヶ月および離職の日の属する月のいずれかの月の賃金と当該月より前6ヶ月間のうちいずれかの月に支払われる賃金とを比較し、85%未満に低下した場合
ただし、低下するまたは低下した時点から遡って1年より前の時点でその内容が予見できる場合および出来高払制のように業績によって、各月の賃金が変動するような雇用契約の場合にはこの基準に該当しません。
また、懲戒や疾病による欠勤がある場合や60歳以上の定年退職に伴い賃金が低下し、同一の適用事業主に再雇用される場合も該当しません。
なお、この場合の「月」とは、賃金締切日の翌日から次の賃金締切日までの期間をいい、「賃金」とは、毎月の決まって固定的に支給される賃金(残業手当など業務の繁閑により支給額が変動するもの等を除いたもの)をいいます。
確認書類
労働契約書、就業規則、賃金規定、賃金低下に関する通知書など
(4)労働時間に関するもの
離職の直前3ヶ月間に連続して労働基準法に基づき定める基準に規定する時間(各月45時間)を超える時間外労働が行われたため、または事業主が危険もしくは健康障害の生ずるおそれがある旨を行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において当該危険もしくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者
「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」第3条に基づく別表第1に規定する延長時間の限度のうち1ヶ月を単位とした延長時間の限度である45時間を超える時間外労働が離職直前の3ヶ月間(賃金締切日を起算日とする各月)に連続して行われていたため離職した場合等が該当します(ただし、労働時間については、有給休暇や体調不良等のやむを得ない理由により時間外労働が行われていない月がある場合には、これを除いて算定します)。
確認書類
タイムカード、賃金台帳、給与明細書など
(5)危険有害業務
労働基準法、労働安全衛生法、育児・介護休業法等の労働者保護法令や保安関係法令(いずれも一定のものに限る。)において、職業生活を継続する上で危険または健康障害の発生するおそれのある旨の法令違反について、所管の行政機関により改善に係る指摘がなされた事実があり、改善に係る指摘後、一定期間(おおむね1ヶ月程度)経過後においても当該法令違反に係る改善が行われていないことを理由に離職した場合が該当します。
なお、労働災害により被害を受けたことにより離職した場合は改善に係る指摘がない場合もこの基準に該当します。
2.職場環境に係る重大な問題があったため
上司、同僚等からの故意の排斥または著しい冷遇もしくは嫌がらせを受けたと労働者が判断したために離職した場合です。
(1)故意による排斥
上司、同僚等の「故意」の排斥または著しい冷遇もしくは嫌がらせをくり返し受けたことにより離職した場合が該当します。即ち、特定個人を対象とした配置転換または給与体系等の変更が行われた場合が該当します。
管理者が、部下の職務上の失態があった場合等に注意、叱責することは通常起こり得ることから、そのことだけをもってはこの基準に該当しません。
確認書類
特定個人を対象とする配置転換、給与体系等の変更があった場合には、配置転換の辞令(写)、就業規則、労働契約書、賃金台帳など
(2)セクシュアルハラスメント
事業主が男女雇用機会均等法第11条に規定する職場におけるセクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」という。)の事実を把握していながら、雇用管理上の措置を講じなかった場合に離職した場合が該当します。
この基準は、当該労働者が事業主(または人事担当者)、雇用均等室等の公的機関にセクハラの相談を行っていたにもかかわらず、一定期間(概ね1ヶ月)経過後においても、事業主が雇用継続を図る上での必要な改善措置を講じなかったため離職した場合が該当します。
その他、事業主が直接の当事者であり離職した場合や対価型セクハラに該当するような配置転換、降格、減給等の事実があり離職した場合も該当します。
ただし、視覚型セクハラ(事業所にヌードポスター等を掲示し、女性従業員が苦痛に感じて業務に専念できないこと)については、例えば「隣の席の上司が、自分ひとりに繰り返し卑わいな写真を見せて反応を見て喜んでおり、同僚に相談しても信じてもらえない」ような特定の労働者を対象とするものを除き、それにより離職を決意するに至るとは通常考えられないことから、原則として、この基準には該当しません。
3.事業所での大規模な人員整理があったため
(1)大量な人員整理が予定された
事業規模もしくは事業活動の縮小または事業の転換等に伴い、雇用対策法第27条第1項の規定による離職に係る大量の雇用変動の場合(1ヶ月に30人以上の離職を予定)の届出が安定所にされ(されるべき場合を含む。)大量の人員整理が行われることが確実となったために離職した場合が該当します。
(2)相当数の人員整理が行われた
事業規模もしくは事業活動の縮小または事業の転換等に伴い、当該事業主に雇用される雇用保険被保険者のうちの相当数の人員整理(事業主都合による解雇や勧奨退職、希望退職応募等により離職した者が、当該離職者の離職日の1年前の日(1年前より後に人員整理が開始された場合は当該人員整理開始日)と比較し、適用事業所の3分の1を超えることとなる場合)が既に行われたために離職した場合が該当します。
確認書類
大量離職届の写し等
4.労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないため
職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないため、離職した場合です。
(1)別職種への転換
採用時に特定の職種を遂行するために採用されることが労働契約上明示されていた者について、当該職種と別の職種を遂行することとされ、かつ、当該職種の転換に伴い賃金が低下することとなり、職種転換が通知され(職種転換の1年前以内に限る。)、職種転換直後(おおむね3ヶ月以内)までに離職した場合が該当します。
この場合の「賃金」とは、毎月の決まって固定的に支給される賃金(残業手当など業務の繁閑により支給額が変動するもの等を除いたもの)をいいます。
確認書類
採用時の労働契約書、職種転換・配置転換の辞令(写)、賃金台帳など
(2)長期間同一職種に従事し、職種転換が困難
採用時に特定の職種を遂行することが明示されていなかった者であって一定期間(10年以上)同一の職種に就いていたものについては、職種転換に際し、事業主が十分な教育訓練を行わなかったことにより、労働者が専門の知識または技能を十分に発揮できる機会を失い、新たな職種に適応することが困難なため離職した場合が該当します。
したがって、事業主が職種を遂行する上で必要な教育訓練を実施し、同職種に他の職種より転換した者が適応できている場合においては、原則として、この基準に該当しません。
確認書類
採用時の労働契約書、配置転換の辞令(写)など
(3)遠隔地への転勤命令
労働契約上、勤務場所が特定されていた場合に遠隔地(通常の交通機関を利用して通勤した場合に概ね往復4時間以上要する場合。(4)において同じ。)に転勤(在籍出向を含む。)を命じられ、これに応じることができないため離職した場合が該当します。
確認書類
採用時の労働契約書、転勤の辞令(写)など
(4)権利濫用に当たるような配転命令
家族的事情(常時本人の介護を必要とする親族の疾病、負傷等の事情がある場合をいう。)を抱える労働者が、遠隔地に転勤を命ぜられたため離職した場合等が該当します。
確認書類
転勤の辞令(写)など
5.事業所が通勤困難な地に移転したため
通勤困難(通常の方法により通勤するための往復所要時間がおおむね4時間以上であるとき等)な適用事業所の移転について事業主より通知され(事業所移転の1年前以降の通知に限る)、事業所移転直後(おおむね3ヶ月以内)までに離職した場合がこの基準に該当します。
確認書類
事業所移転の通知、事業所の移転先が分かる資料および離職者の通勤経路に係る時刻表など
6.契約期間の更新が3年以上にわたって継続された場合
期間の定めがある労働契約(1年以内の労働契約に限る。)が2回以上更新され、雇用された時点から継続して3年以上雇用されている場合であり、かつ、労働契約の更新を労働者が希望していたにもかかわらず、契約更新がなされなかった場合に離職した場合が該当します。
なお、定年退職後の再雇用時に契約更新の上限が定められてる場合など、あらかじめ定められていた再雇用期限の到来に伴い離職した場合はこの基準には該当しません。
確認書類
労働契約書、雇入通知書、就業規則、契約更新の通知書、タイムカードなど
労働者の個人的な事情に起因する離職(一身上の都合)
例えば、職務に耐えられない体調不良、妊娠・出産・育児等を行うこと、親族の介護等の家庭事情の急変、自発的な転職等労働者が職場事情以外の個人的な事情一般により離職した場合です。
確認資料は不要です。
注意点
偽りその他不正の行為で失業等給付を受けたり、または受けようとした場合には、以後これらの失業等給付を受けることができなくなるばかりでなく、不正に受給した金額の返還と更にこれに加え一定の金額の納付を命ぜられ、また、詐欺罪等で処罰されることがあります。
離職票の離職理由について虚偽の申告を行うことも不正行為となりますのでご注意ください。
事業主が離職理由について虚偽の記載を行う等、偽りその他不正の行為をした場合にも、不正に受給した者と連帯して不正受給金の返還、納付命令、詐欺罪等として刑罰に処せられる場合があります。
また、以下のいずれかの場合には、雇い入れに関する助成金が支給されないこととなります。
特定受給資格者の判断基準について更に詳細にお知りになりたい場合は、都道府県労働局職業安定部またはお近くの公共職業安定所(ハローワーク)にお問い合せください。