改正労働基準法解説レポート
令和5年4月1日から、月60時間超の割増賃金率の引き上げが中小企業にも適用となります。
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サンプル条文や改訂例を参考に、就業規則の改訂を行ってください。
エスケープ条項とは
臨時に限度時間を超えて時間外労働を行う場合
臨時に限度時間を超えて時間外労働を行うことが予想される場合には、次のような「特別条項付き協定」を締結することによって限度時間を超える時間を延長時間することができます。
この場合、労使間で
(1) | 原則としての延長時間(限度時間以内の時間)を定める |
(2) | 限度時間を超えて時間外労働を行わせなければならない特別の事情をできるだけ具体的に定めること |
(3) | 「特別の事情」は、次のア・イに該当するものであること ア.一時的または突発的であること イ.全体として1年の半分を超えないことが見込まれること |
(4) | 一定期間の途中で特別の事業が生じ、原則として延長時間を延長する場合に労使がとる手続を、協議、通告その他具体的に定めること |
(5) | 限度時間を超える一定の時間を定めること |
(6) | 限度時間を超えることのできる回数を定めること |
以上が前提となっています。
特別な事情とは、臨時的なものに限定されます(1年の半分を超えない)。
「業務の都合上必要なとき」「業務上やむを得ないとき」などという定めは恒常的な長時間労働を招くおそれがあるので、認められていません。
協定には、1日を超え3ヶ月以内の一定期間について、原則となる延長時間を超え、特別延長時間まで延長できる回数を協定することが必要です。
この回数の定めがない場合は、国の助言・指導の対象となります。
この特別条項を所轄労働基準監督署長に届け出るときは、36協定の所定様式の該当欄にその概要を( )書きするか、所定欄に「別紙のとおり」と記載し、概要を書いた別紙を添付します。
特別な事情の例
一時的または突発的な事由である必要があります。
臨時的と認められるもの | 臨時的とは認められないもの |
---|---|
予算、決算業務 | (特に事由は限定せず)業務の都合上必要なとき |
ボーナス商戦に伴う業務の繁忙 | (特に事由は限定せず)業務上やむを得ないとき |
納期のひっ迫 | (特に事由は限定せず)業務繁忙なとき |
大規模なクレームへの対応 | 使用者が必要と認めるとき |
機械のトラブルへの対応 | 年間を通じて適用されることが明らかな事由 |
規定例
例1:
一定期間についての延長時間1ヶ月30時間とする。ただし、通常の生産量を大幅に超える受注が集中し、特に納期がひっ迫したときは、労使の協議を経て、1ヶ月50時間までこれを延長することができる。この場合、延長時間を更に延長する回数は6回までとする。
例2:
1ヶ月間の延長労働時間数は45時間、1年は360時間とする。
ただし、特別な納期の集中、注文の変更、臨時的注文、手直しの発生、突発的な修理、機械の故障、コンピュータの不調、得意先倒産、特別検査その他特別な事情のあるときは、1ヶ月ごとに労働組合と協議し(注:通知、報告、届出、了解、同意等いずれでもよい)、1ヶ月60時間まで延長することができる。
ただし、延長できるのは、各四半期ごとに2月までとし、各月10回を限度とする。
例3:
一定期間についての延長時間は、1ヶ月30時間とする。
ただし、納期が集中し生産が間に合わないときは、労使の協議を経て、1ヶ月40時間までこれを延長することができる。
ただし、延長可能なのは、引き続く2ヶ月間までとし、1ヶ月の延長回数は6回を限度とする。
例4:
勤務時間の延長は、1日6時間、1ヶ月45時間、年間360時間を限度とする。
(1) 会社は次のいずれかに該当する場合、「延長することができる時間」を超えて労働時間を延長することができる。
- 乗用自動車運転手、通勤バス運転手および遠距離自動車運転手
- 動力・ガス・水道・電話の保守およびメーター監視
- 温度・湿度の保守および監視
- 炉関係勤務者(連続運転を要する炉)
- 緊急立会試験・検査・工事監督立会
- 緊急開発(設計・試作)
- 電子計算機関係勤務者(製造を除く)
- 寿命試験および長時間を要する性能・調整試験
- 災害による設備復旧作業
- 主要な生産設備または材料の破損
- 運搬中における製品または材料の破損
- 受注製品の完成試験における不合格事故
- 納入製品の保証期間中の事故
- 賃金・一時金の計算事務(賃金・一時金の改訂時)
- 予算・決算事務(予算・決算の時期)
- 納期集中・切迫による生産対応
- その他会社と労働組合間において協議が成立した作業
(2) 前項により労働時間を延長する場合は、会社は労働組合と協議すること。
(3) 第(1)項により特別に延長できる時間は1日15時間、1ヶ月250時間とする。
また、特別延長時間の適用は、各四半期ごとに30日を限度とする。
【改正】※平成22年4月1日改正
この特別条項付き労使協定に定める事項として以下の点が加えられました。
- 限度時間を超える時間外労働に対する割増賃金率を定めること。
(延長することができる期間を「1日を超え3ヶ月以内の期間」と「1年間」の両方締結する場合は、それぞれについて割増賃金率を定める必要があります。) - 限度時間を超える時間外労働はできる限り短く設定するよう努めること。
- 限度時間を超える割増賃金率には2割5分を超えるよう努めること。