改正労働基準法解説レポート

令和5年4月1日から、月60時間超の割増賃金率の引き上げが中小企業にも適用となります。
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フレックスタイム制と労働時間の過不足の取り扱い

賃金の精算が必要

フレックスタイムの場合、時間外労働は清算期間中の実労働時間が協定に定める総労働時間を超えた部分から発生します。

実際に労働した時間が清算期間における総労働時間として定められた時間に比べ過不足が生じた場合には、清算期間内で労働時間及び賃金を清算することが原則ですが、次の清算期間に繰り越すことの可否については次の通りです。

そのポイントは、労働基準法24条、賃金の「全額払いの原則」にあります。


実際の労働時間に過剰があった場合

あらかじめ定められた時間分はその期間の賃金支払日に支払うが、それを超えて働いた時間分については次の清算期間中の総労働時間の一部に充当する 、という方法は、その清算期間内における労働の対価の一部がその期間の賃金支払日に支払われないことになり、労働基準法24条に違反します。

超過勤務時間を翌月に繰り越して、翌月の所定労働時間を短くするという取り扱いはできないのです。


実際の労働時間に不足があった場合

定められた時間に達しない時間分を次の清算期間中の総労働時間に上積みして労働させることは、法定労働時間の総枠の範囲内である限り、最初の清算期間内において実際の労働時間に対するより多い賃金を支払い、次の清算期間でその分の賃金の過払分を清算するものと考えられますので、労働基準法24条に違反するものではありません。


時間外労働の前倒しと賃金の全額払いを両立させるためには

ただし、この考え方には、「労働時間」の取り扱いと「賃金」の取り扱いを混同するものだという批判があります。

この矛盾を解決する方法としては、仮に第一回目のフレックススタート時に、予想される以上の時間外を見込んで賃金を多めに支払っておき、それ以降は多く支払った範囲内で超過時間を清算していくという方法もあります。

すなわち、時間外部分を常時前払いしておく、という方法です。

しかし、実際の時間外労働を予見するのは容易ではありません。

なお、労働者が清算期間中の総労働時間に不足する時間数について、これを充当する目的で、後日、年次有給休暇により相殺するということは、認められません。


労働時間の特例

なお、清算期間が1ヶ月で、清算期間を通じて完全週休2日制を実施している場合、清算期間における曜日の巡りや労働日の設定によっては、清算期間の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えることがあります。

例えば、1ヶ月が31日の月で、その月の1日が月曜日、土日が休日の場合、1ヶ月の労働日数は23日になりますが、そうすると「23日×8時間=184時間」となってしまい、本来適法な労働時間の設定なのに曜日と月との関係で違法になってしまうという、不合理が起こりえることになります。

この場合、次の要件を満たす場合に限って、清算期間の労働時間が法定労働時間の総枠を超える場合にも、法定労働時間内とみなす特別な扱いを認めています。

  1. 清算期間を1ヶ月とするフレックスタイム制の労使協定が締結されていること
  2. 清算期間を通じて毎週必ず2日以上の休日が付与されていること
  3. 特定期間(当該清算期間の29日目を起算日とする1週間)における当該労働者の実際の労働日ごとの労働時間の和が週の法定労働時間(40時間)を超えるものでないこと
  4. 清算期間における労働日ごとの労働時間がおおむね一定であること。

したがって、完全週休2日制を採用する事業場における清算期間中の労働日ごとの労働時間についてはおおむね8時間以下であること。

上記要件を満たす場合における労働基準法32条の3に規定する「清算期間として定められた期間を平均」した1週間あたりの労働時間については、次の計算方法によることも差し支えないとされています。

「清算期間として定められた期間を平均」した1週間あたりの労働時間

なお、「この計算方法は、フレックスタイム制においては、各日の始業及び終業の時刻が労働者の自主的な選択にゆだねられていることから認められるものであり、他の変形労働時間制には適用される余地がないものであること」が確認されています。(昭和63.1.1 基発1号)


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