週休2日制と労働時間延長

就業規則の変更と合理性のかねあい

(1) 就業規則を使用者が不利益に変更することは原則として許されない。
しかし、変更された就業規則の条項が合理的である場合には、変更に合意しない労働者にも拘束力がある。
(2) 「合理性」は、変更の必要性と内容の合理性の両面から見て、労働者の被る不利益を考慮しても、なお当該労使関係において法的規範性を是認できるだけの合理性をいう。

特に賃金、退職金など労働者にとって重要な権利・労働条件について、労働者に実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更の場合には、その不利益を労働者に法的に受忍させることができるだけの「高度の必要性」に基づいた変更であることが必要だとされています。


労働時間延長の是非の判断基準

労働時間延長の是非については、次のポイントをチェックします。

就業規則の変更手続きはどうだったか

就業規則を変更する場合、使用者には意見聴取、変更、周知、届け出義務があり、変更の場合にはこれらのすべてが効力発生要件になると考えられています。

これら手続きが一つでも欠ければ就業規則の変更は無効になります。新たに就業規則を制定し既得の労働条件を不利益に変更する場合についても、同様に考えてよいでしょう。

次の判例は、労働時間の変更についてのものです。

日本書籍出版協会事件 東京地裁 平成2.10.29

従来、労働協約で勤務時間を午前9時30分から午後5時までと規定されていた部分を解約し、新たに始業時間を午前9時、終業時間を午後5時とする就業規則を制定した事案につき、実労働時間は見かけほど変更がないこと、賃金面において不利益が生じていないことなどから、変更の合理性が認められた。

函館信用金庫事件 函館地裁 平成6.12.22

完全週休二日制の導入に伴い、平日の勤務時間を25分延長した就業規則の変更につき、延長時間が比較的短時間であること、平日5時以降の実労働時間に影響がないこと、労働者には時間外労働を求める権利がないこと、土曜日に通勤から解放されること、などを総合勘案して合理性を認めた。

伊達信用金庫事件 札幌地裁室蘭支部 平成7.3.27

就業規則の変更により1日の所定勤務時間が10分延長され、その分自由時間が少なくなり、延長された10分間について時間外手当が支給されなくなったが、不利益が僅少であること、逆に時間短縮、時間単価および時間外手当単価の引上げ並びに休日の増加による利益がかなり大きいことから合理性を認めた。

労働者の受ける不利益はどうか

変更により労働者の受ける不利益を考えるに当たっては、賃金、労働時間などの変更による労働密度や生活リズムへの影響、家族生活に及ぼす影響、労働者の将来設計への影響などをリアルにとらえることが必要です。

労働者の受ける不利益が大きければ大きいほど、それだけ変更の合理性・必要性は高いものが必要になります。

羽後銀行事件控訴審判決(仙台高秋田支判 平成9.5.28)は、(1)一日の労働時間が延長される、(2)従来時間外手当が支給されてきた時間が所定労働時間に組み込まれるために、相当程度の時間外手当が支給されなくなり、不利益は著しいとしています(上告審で最高裁は変更に合理性ありと判断した 最高裁 平成12.9.12)。

また、労働時間が延長されると保育園の送り迎えが困難になるなどといった理由がある場合は、不利益性は特に著しくなります。

たとえ全体として合理性が是認されうる場合であっても、一部に耐えがたい不利益を生ずる場合には、不利益緩和の措置が必要になると考えられます。

高度の合理性・必要性があるか

高度の合理性・必要性については、使用者側に主張・立証責任があると考えられています。

この場合、不利益を労働者に法的に受忍させることができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるかどうかが、問題になります。

井之頭病院事件 東京地裁 平成17.8.30

拘束9時間・休憩1時間の8時間勤務三交替の勤務割当となっていた。

病院は、就業規則を変更し、深夜勤に仮眠時間を設け、実労働時間を8時間から7時間に減らした。これにより、それまで支給していた、深夜勤1回についての、(1)1時間の時間外割増賃金、(2)深夜割増手当(深夜勤務時間から仮眠時間を引いたもの)のうち仮眠時間部分1時間が、いずれも不支給となった。

裁判所は、この変更に合理性があり、時間外割増の請求については棄却したが、仮眠時間は労働からの解放が保障されているとはいえず「労働時間」に当たるとして、深夜割増手当については全額支払われるべきだとした。

羽後銀行事件 仙台高裁秋田支判 平成9.5.28

週40時間制の実施は労働時間を短縮する方向で実施することが望まれ、労働時間の短縮が少ない場合には、その内容を積極的に評価できない。また、1日の労働時間を延長しなければ経営上不利益を生ずるおそれがあることを主張・立証していない。

他の銀行との横並び、労使交渉が妥結しなかったこと、多数労働者の賛同などは、いずれも不利益を受忍させるに足る理由とはならない。

労基法改正に伴い労働条件を切り下げられるかについては、 労働基準法1条2項の規定があります。

すなわち、「この法律(労基法)で定める労働条件は最低のものであるから、労働関係の当事者はこの基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」とされています。

代償措置はあるか

不利益を緩和する代償措置、たとえば、定年の延長、特別融資制度の新設等がとられた場合には不利益変更が認められやすくなりますが、代償措置はあくまでも付随的な事情として判断されることになります。

労働組合との交渉はどうだったのか

労働条件の不利益変更の場合には、実際の労使交渉の手続やプロセスが特に重要になります。

従業員の多数を組織する労働組合との間に交渉、合意を経て労働協約が締結されたときには、「変更後の就業規則の内容は労使間の利益調整がされた結果としての合理的なものであると一応推測することができる」と考えられるとしています。(第四銀行事件 最二小判 平成9.2.28)

これに対して、企業に従業員の多数を代表する労働組合がない場合、多数を代表する労働組合があり交渉・合意があったとしても、設問のように高齢者、女性やパートタイマーといった一部のグループのみが変更により制度上特に不利益を受ける場合、そのグループの意見を聴き、その利益に配慮したかが問題となります。

同業他社との比較ではどうか

羽後銀行(北都銀行)事件

旧羽後銀行が、平成元年3月から、完全週休2日制を実施するに伴って就業規則の改正を行った。

これにより、平日の所定労働時間は、従来午前8時50分から午後4時50分であったものが、週初めと毎月25日から月末まで(特定日・年間95日)は午前8時50分から午後5時50分まで60分延長され、特定日以外の平日が午前8時50分から午後5時まで10分延長されたため、従業員組合が、合併後の北都銀行を相手取って、延長された勤務時間の時間外手当の支払いを求めた。

第一審(秋田地判 平成4.7.24)

(1)銀行が相対的に競争力の低い銀行である、

(2)不利益は必ずしも大きくない、

(3)年間所定労働時間が全国の銀行の中でも最も短いほうに属する、

等を上げ合理性を認めた。

第二審(仙台高秋田支部判 平成9.5.28)

(1)銀行完全週休2日制は、国内外の各分野の要求に合致する要請であり、金融機関は労働時間短縮をより実現する方向で取り組むことが望まれる。

本件就業規則の変更による労働時間の短縮は、その程度がかなり小さく、その内容自体の合理性を積極的に評価できないところが残る。

(2)就業規則変更の必要性について、

a.毎月25日以降の特定日の延長が、週休2日制の実施に伴う事務量の増加と関連することを認めるに足る証拠はない、

b.特定日の労働時間の延長をしなければ、経営上不利益を生ずるような問題点があることに関する具体的な主張は、銀行からなされていない、

(3)週休2日制の実施が、銀行の経営を圧迫することになり、銀行が企業収益を確保するという経営面から就業規則の変更を必要としたことを認めるに足る証拠は十分でない、と認定し、

(4)他の銀行との横並びや労使交渉が妥結しなかったこと、多数労働者の賛同などはいずれも、不利益を受忍させるに足る理由とはならないとして、合理性を否定し、合計2,621万円の支払いを命じた。

上告審(最高裁第三小法廷判 平成12.9.12)

(1)本件が就業規則の不利益変更であることは確かである。

(2)特定日の60分延長は大きいが、特定日以外の延長は10分にすぎない。

変更後は年間の労働時間は42時間10分短縮し、週単位でみると所定労働時間が減少している方が多い。

むしろ、時間当たりの基本賃金額は増加したといえる。

(3)時間外勤務の命令は、使用者の裁量の範囲内で、それが当然に行われるということを前提とする主張には、合理的な根拠がない。

(4)むしろ、労働から完全に解放される休日が増加するのは、労働者にとって利益である。

(5)週給増による労働量減少を、他の日の労働時間の延長によって埋め合わせることは、経営上一般的に考えられることである。

以上から、就業規則変更に伴う不利益は、大きいものとはいえず、受忍やむを得ない合理的内容である。


ページの先頭へ