改正労働基準法解説レポート

令和5年4月1日から、月60時間超の割増賃金率の引き上げが中小企業にも適用となります。
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サンプル条文や改訂例を参考に、就業規則の改訂を行ってください。

割増賃金からの除外

割増賃金から除外されるもの

家族手当、通勤手当など、個人的事情で支給されるものは除外

「通常の労働時間の賃金」の中にも、家族手当、通勤手当のように、労働と直接的な関係がうすく個人的事情に基づいて支払われる賃金があり、これらをすべて、割増賃金の基礎にするとすれば、家族数、通勤距離等個人的事情に基づく手当の違いによって、それぞれに差が出てくることになります。

このことから、労働基準法施行規則21条では、次のものについて、計算対象から除くことができるとされています。

労働基準法施行規則第21条

労働基準法第37条第4項の規定によって、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第1項及び第3項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。

  1. 別居手当
  2. 子女教育手当
  3. 住宅手当
  4. 臨時に支払われた賃金
  5. 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

これらは単なる例示ではなく、制限的に列挙されたものですから、これらに該当しない通常の労働時間の賃金はすべて割増賃金の基礎に算入しなければなりません。

家族手当

ただし、実際にこれらの手当を除外するにあたっては、単に名称によるものでなく、その実質によって取り扱うべきものですから(昭和22.9.13 基発第17号)、例えば、生活手当等と称していても実質的に家族手当に該当するものは除外できますし、逆に家族手当の名称をとっているものであっても、実質的には別の場合は、除外されないことになります。

均衡上独身者にも一定額の手当が支払われている場合には、独身者に支払われている部分(又は扶養家族にある者に対して「本人分」として支払われている部分)は、家族手当ではないとされます。(昭和22.12.26 基発第572号)

通勤手当

一定額までは距離にかかわらず一律に支給するような場合には、この一定額部分は通勤手当ではないとされ、割増賃金の算定基礎に含まれることになります。(昭和23.2.20 基発第297号)

別居手当

通勤の都合により同一世帯の扶養家族と別居を余儀なくされる労働者に対して、世帯が2分されることによる生活費の増加を補うために支給される手当をいいます。

単身赴任手当・子女教育手当などと呼ばれることもあります。

1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

賞与が代表例ですが、精勤手当、能率手当などが1ヶ月を超える期間の成績等によって支給される場合は、これに該当します。

1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金の種類

1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金は除外することが可能ですが、その種類は限られています。

労働基準法施行規則8条により、次の3種類が掲げられています。

  1. 1ヶ月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当
  2. 1ヶ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
  3. 1ヶ月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給または能率手当

ところで、本来は割増賃金の基礎となるべき賃金を、1ヶ月を超える期間ごとに支給するようにできるかというと、これは労働基準法24条第2項が規定しているとおり、臨時に支払われる賃金、賞与および労働基準法施行規則8条に掲げる精勤手当、勤続手当ならびに奨励加給または能率手当以外の賃金は、毎月支払われなくてはならないことになっています。

「1ヶ月を超える期間にわたる事由」が前提となっていますから、「月ごとに手当額を算定し、これをまとめて四半期毎に払う」というような場合は、除外対象にはできません。

したがって、これ以外の賃金は、1ヶ月を超える期間ごとに支払うことはできないため、割増賃金の計算基礎から除外することはできません。

労働基準法第24条第2項

賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので省令で定める賃金(労働基準法第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。


割増賃金から除外されないもの

一律に支払われる家族手当は除外対象にならない

家族手当とは「扶養家族数又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当」を指します。

独身者にも、扶養家族がある者との均衡上などから一律額が支払われる場合、扶養有りと想定して本人に払われる額は、家族手当に当たりません。よって、この部分については、割増賃金計算の除外になりません。(昭和22.12.26  基発第572号)

扶養家族有りの従業員に支払われるものであっても、家族数に関係なく一律に支払われる手当は、除外できません。(昭和22.11.5 基発第231号)

一律に支払われる住宅手当は、除外対象にならない

※賃貸住宅2万円、持ち家居住者1万円という定額支給も対象外

※扶養家族あり2万円、扶養家族なし1万円など、住宅手当以外の要素に応じて支給されているものも対象外

〔具体的範囲〕

イ.割増賃金の基礎から除外される住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいうものであり、手当の名称の如何を問わず実質によって取り扱うこと。

ロ.住宅に要する費用とは、賃貸住宅については、居住に必要な住宅(これに付随する設備等を含む。以下同じ。)の賃借のために必要な費用、持家については、居住に必要な住宅の購入、管理等のために必要な費用をいうものであること。

ハ.費用に応じた算定とは、費用に定率を乗じた額とすることや、費用を段階的に区分し費用が増えるにしたがって額を多くすることをいうものであること。

ニ.住宅に要する費用以外の費用に応じて算定される手当や、住宅に要する費用にかかわらず一律に定額で支給される手当は、本条の住宅手当に当たらないものであること。

〔具体例〕

イ 本条の住宅手当に当たる例

(イ) 住宅に要する費用に定率を乗じた額を支給することとされているもの。例えば、賃貸住宅居住者には家賃の一定割合、持家居住者にはローン月数の一定割合を支給することとされているもの。

(ロ) 住宅に要する費用を段階的に区分し、費用が増えるにしたがって額を多くして支給することとされているもの。例えば、家賃月額5~10万円の者には2万円、家賃月額10万円を超える者には3万円を支給することとされているようなもの。

ロ 本条の住宅手当に当たらない例

(イ) 住宅の形態ごとに一律に定額で支給することとされているもの。例えば、賃貸住宅居住者には2万円、持家居住者には1万円を支給することとされているようなもの。

(ロ) 住宅以外の要素に応じて定率または定額で支給することとされているもの。例えば、扶養家族がある者には2万円、扶養家族がない者には1万円を支給することとされているようなもの。

(ハ) 全員に一律に定額で支給することとされているもの。

(平成11.3.31 基発第170号)

以上の行政解釈からわかるとおり、割増賃金の計算基礎から除外できる住宅手当は、住宅に要する費用の多寡に応じて支給されている必要があり、社宅であるか、賃貸であるか、持ち家であるかといった住宅の形態ごとに一律に定額で支給されるものや、あるいは、管理職であるか、一般社員であるかといった住宅以外の要素に応じて支給されるものは該当しません。

一律で支払われる通勤手当は除外できない

一定額まで一律で従業員全員に支払われる通勤手当は、除外対象になりません。

通勤手当でも距離に関係なく支払われる部分がある場合は、その部分を算定基礎に算入する。

(平成23.2.20 基発第297号)

その他一律で支払われる手当

生活手当、物価手当、都市手当、へき地手当などの生活補助目的をもって支給される手当も、家族数に応じて支給される等のものでない限り除外賃金とはなりません。

特定作業に応じた「特殊手当」は臨時と認められない

危険作業手当など、特定の作業に従事した場合に支払われる手当は「臨時に支払われた賃金」には該当しません。

よって、割増賃金計算の除外になりません。

エスエイロジテム事件 東京地裁 平成12.11.24

労働基準法第37条労働基準法施行規則第21条における除外賃金の範囲が争われ、これらが限定列挙であるとして、タンクローリーやダンプ運転手の「業務手当」「加算手当」を算定基礎に含めた割増賃金の請求が認容された。

毎月の出勤成績で支払われる手当は除外できない

1ヶ月の出勤成績に応じて支払われる精皆勤手当などは褒賞的性格を持っているので、割増賃金に算定する必要はないという意見もありますが、通常の労働時間の賃金であることに変わりはなく、除外賃金に該当しません。

役付者の取扱い

一般に管理職には役付手当・役職手当などが支給されますが、これをもって時間外手当の支給を免除されるには、労働基準法第41条に該当する「管理監督者」である必要があります。

その範囲は広くありません。

また、役付手当に時間外部分が含まれると主張するためには、その旨が就業規則に明示されており、役付部分と時間外部分との区分が明確になっていることが必要です。

単に「考慮して決めている」という程度では、これを割増賃金と認めることは困難と思われます。

(参考)平均賃金の算定の基礎に含まれないもの

割増賃金の除外対象と平均賃金の除外対象は微妙に異なります。

  1. 臨時に支払われた賃金(私傷病手当、結婚手当、退職金等、加療見舞金、退職金、臨時的・突発的な事由に基づいて支払われるもの、又は支給事由の発生が不確定で、且つまれに発生するもの)
  2. 3ヶ月を超える期間毎に支払われる賃金(半期毎の賞与など。賞与であっても3ヶ月ごとに支払われる場合は参入されます)
  3. 通貨以外のもので支払われた賃金で、一定の範囲に属しないもの(法令又は労働協約の定めによる現物給付など)

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