改正労働基準法解説レポート

令和5年4月1日から、月60時間超の割増賃金率の引き上げが中小企業にも適用となります。
法改正による新制度の導入方法について、詳しく解説したマニュアルを無料提供しています。
サンプル条文や改訂例を参考に、就業規則の改訂を行ってください。

ケーススタディ

当日の電話による休暇請求の取り扱い

労働基準法上の年休は「労働日」を単位としています。

したがって、1日の年休という場合、その1日とは原則として午前0時から翌午前0時までの暦日をいうと定められているので、当日の朝になって電話等で「今日年休をとって休みたい」という申し出が本人からあったとしても、「事後請求」となってしまいます。

この場合、使用者の時季変更権の行使は不可能ですから、法律上の適用条件を満たす請求とはいえなくなります。

また、パートタイマー等の非正規雇用によってシフト制を引いている現場では、急な代替要員の確保が困難です。

こういった状況を踏まえると、事業主が「欠勤として扱う」と決めたとしても、問題はないといえます。

事後振替による年休の充当を認めるかどうかは、使用者の自由とされています。(電気化学工業事件 新潟地裁 昭和37.3.30)

したがって、このような当日の請求を認めることとしてもよいし、一切認めない取扱いとしても違法ではありません。

原則禁止とし、「緊急やむを得ない場合で会社が認めたときに限り事後振替を認める」という方法もあります。

ただし、所属長がこれを認める取扱いを事実上行っていて、これが反復・継続され、労働慣行となっている場合には、認めざるを得なくなることもあります。

もちろん、就業規則によって当日申請を認めている場合は、欠勤扱いはできません。

此花電報電話局事件 最高裁 昭和57.3.18

労働協約で職員の勤務割りの変更は前々日の勤務終了時までとされていた場合に、年次有給休暇の時季指定を原則として前々日までとする就業規則の定めは、時季変更権の行使についての判断の時間的余裕を与え、代替要員の確保を容易にし、時季変更権の行使をなるべく不要ならしめようとする配慮に出たものであり、合理性を有し、有効である。


病欠等への後日の振替

年休制度の本来の趣旨からすれば、そぐわない取り扱いといえます。

したがって、従業員の欠勤を、事業主が後から年休で補填させることは、結果的に年休を与えないこととなり違法です。

しかし逆に、従業員からの申出により欠勤に年休を充当することは、本人が権利を自主的に放棄したと見なされるため、問題は生じません。

年休の利用目的は問わないという性格からすれば、事後に病気欠勤等への休暇の充当を認めたとしても違法にはならない。

(昭和24.12.26 基発1456号)

あくまでも事後処理として「違法とならない」ということですので、労働者として当然の権利としてこのような振替充当の請求権を持つものではないことに留意する必要があります。

また、病気欠勤の年休への振替が制度化されている事業場では、就業規則にその旨規定しなければならないとされています。(昭和63.3.14 基発150号)

これは産前休業などの年休以外の休暇取得中の場合も同様です。


その他欠勤日への振り替え

急な欠勤日を後から年休で充当することは、前項同様、使用者の同意がある限りは許されると解されています。(東京貯金事務センター事件 東京地裁 平成5.3.4 東京高裁 平成6.3.24)


年度途中の定年退職者の場合

1月1日が年休の基準日である従業員が3月末に定年退職するというケースはしばしばあります。

この場合、年休が20日として、1年の4分の1しか勤務日がないから、休暇付与も5日でいいかというと、そういうことにはなりません。

3ヶ月で退職する者であるとしても、全部の有給休暇を取得する権利を有します。


退職前に有給休暇を取得したいといわれた

退職前の年休消化


年度途中でパートが正社員に身分切り替えされ、労働日数が増えた

年休日数は、年休の権利が発生する時点で決まるものですから、年度途中の身分切り替えで所定労働日数が変更された場合も、年休日数に変更は生じません。


休職期間中に年休権は行使できるか

休職発令された者は、休職期間中の日を年休日として時季指定することはできません。

就労義務のない日について時季指定権を行使する余地がないからです。(昭和24.12.28 基発1456号、昭和31.2.13 基収489号)


休日に年休を取得することができるか

有給休暇は賃金の減収を伴うことなく労働義務の免除を受けるものであるから、休日その他労働義務の課されていない日については、これを行使する余地がないといえます。

所定休日に必要があって休日労働を命じられた場合、一応労働義務が生じることとなりますが、これに対しても年休の請求はできないと解されています。


会社が業績悪化で休業中、残っている年休で給料補償したい

使用者の都合で休業を命じられたが、賃金保障60%より、100%賃金補償される有給休暇を取りたいという場合があります。

不可抗力又は使用者の責任による休業期間については、そのことによって、既に労働義務がなくなる状態が確定しているのであれば、その日について年休を与えなくても違反とはならない、というのが取り扱いの原則です。

しかし、会社休業を事前に知らされないまま休暇申請している人もいますから、これとの均衡上、「事後による年休との振替を認めて差し支えない。」との行政解釈となっています。

なお、労働者の希望によって年休への振替を認めた場合、その日について労働者は100%の賃金が支払われるので、使用者は別に60%の休業手当の支払う義務は免れるとされます。


会社が合併した

権利義務関係は継続しますので、年休も引き継がれます。


会社分割された

一般的には労働契約が承継されますので、年休も引き継がれます。


営業譲渡された

当然に債権債務が承継されるわけではありません。

労働契約が営業譲渡に伴い承継されたかどうかがポイントとなります。

譲渡先への転籍の折りに、確認が必要です。


在籍出向した

勤続年数は通算されます。

したがって、出向先での勤続期間が少なくても、出向元での在職期間を通算して、必要な年休が与えられなければなりません。

出向元の年休が法定基準を上回っており、出向先が法定どおりだとすれば、出向元の有利な基準が適用されます。

逆に、出向先が法定基準を上回り、出向元が法定基準だった場合は、そのときの取り決めによります。


転籍した

離職扱いの転籍の場合、勤続期間は通算されないと考えられます。

ただし、転籍は本人の同意がなければできませんから、転籍時の同意内容いかんでは、これを根拠に前職の年休を請求できる可能性があります。


年休中に仕事で会社から呼び出された

年休取得中に、急用が生じ、休暇をとっている労働者を呼び出すことになった場合、「事前に時季変更権を行使しない限り、当日は労働義務はないのであるから、労働者の同意があれば格別、使用者の都合によって呼び出すことはできない」と解されています。

なお、労働者の同意により、出勤した場合、当日は年休を与えたことにならないから、別の日に休暇を与えなければなりません。

例えば、年休を取得していた日の一部(数時間)を出勤した場合であっても、休暇は1日以下に分割できないから、別に1日の休暇を与えることを要します。

なお、労働者が呼び出しに応じて仕事をした場合は、この日は通常の労働日ですので、休日労働の割増賃金を支払う必要はありません。


年休中に他社で仕事をした

この問題については、裁判例・行政解釈は見あたりません。

その労働の負荷の大きさ、その労働の種類、その労働者の家計の状態等様々な状況を総合的に勘案して、「権利の濫用」かどうかを判断することになります。

ただし、他社で労働に従事したことが、懲戒事由である「兼業禁止」に当たるか否かは、別途検討されることになります。


一斉休暇闘争

ストを目的とした休暇の利用は、正当なものとは認められません。

国鉄郡山工場事件 最高裁 昭和48.3.2 ほか

労働組合の要求貫徹の手段として組合員の多数が一斉に年休をとって休むいわゆる一斉休暇闘争は、事業の正常な運営の阻害目的による年休に名をかりたストライキにほかならないから、正当な年休とは認められない。

国鉄鹿児島車掌区事件 福岡高裁宮崎支部 昭和35.1.12 ほか

年休をどのように利用するかは労働者の自由であるとしても、それが、組織的、集団的に要求貫徹の手段として事業の正常な運営を妨げることを目的として利用されるならば、その形式いかんにかかわらず、争議行為となる。


その他、争議行為と休暇

事前に休暇を申し出ていた日が、たまたまストライキ日と当たってしまった場合には、正当な年休利用として処理しても問題ありません。

もっとも、この場合には、使用者が時季変更権を行使する可能性が高いといえるでしょう。

当該労働者の所属する事業所での争議行為に参加するために有給休暇を申請した場合は、正当な年次有給休暇の行使とは言えなくなります。

なお、年休をとって他の会社や他の支店のピケ等の応援に行くことは、スト目的には該当しないので、通常の取り扱いになります。(国鉄郡山事件 最高裁 昭和48.3.2)

争議のあった日を、後日労働者が年休で充当してほしいと請求した場合については、使用者はその請求を認めてその日を年次有給休暇に振り替えたとしても、差し支えないと解されています。


業務妨害を目的とした年休の利用

自己の事業場の業務妨害のための年休の利用については、権利濫用とされます。

東京国際郵便局事件 東京地裁 平成5.12.8

年休の時季指定が労働者において、休暇届を提出して職場を放棄・離脱したうえ、自己の所属する事業場に正当な理由なく滞留するなどしてもっぱら事業の正常な運営を阻害することを目的とするためにあるなど特段の事情がある場合、それは年休に名をかりて違法な業務妨害をすることを目的とするものであるということができるから、年休権行使の濫用として許されない。


ページの先頭へ