時季変更権

原則として年休は与えなければならない

使用者は、労働者が請求する時季に年休を与えなければなりません。

年休取得者が殺到して、代替要員の確保が困難な場合など「事業の正常な運営を妨げる場合」にのみ、他の時季に変更することができます。

休暇の利用目的によって時季変更権を行使したりしなかったりすることは許されません。

時季変更は、変更を指示するに足り、「○月○日に変更せよ」というような特定な日を指定する必要はありません。

時季変更する場合は、労使慣行等諸般の事情を客観的に考慮して慎重にするべきです。

「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するためには、現実に事業の正常な運営が害されたという事実がなくてもよく、当時の客観的状況に照らして合理的に予想される事実に基づけばいいとされています。(新潟鉄道郵便局事件 最高裁 昭和60.3.11)

また、「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、当該労働者の所属する事業場のみの場合、と解されています。

労働者が指定した日に年休が取れるよう配慮することなく行使された時季変更権は無効だとした判例もあります。(弘前電報電話局事件 最高裁 昭和62.7.10、横手統制電話中継所事件 最高裁 昭和62.9.22)

時季変更権の行使

問:
事業の正常な運営を保持するために必要があるときは労働者の意に反する場合においても年次有給休暇を与える時季の変更ができるか、また年度を超えて変更することもできるか
答:
見解の通りであるが、事業の正常な運営を妨げる場合とは、個別的、具体的、客観的に判断されるべきものであると共に、事由消滅後能う限り速やかに休暇を与えなければならない。

(昭和23.7.27 基収2622号)

なお、権利行使という強制力ではなく、「なるべく他の日にしてほしい」という、上司としての「希望の表明」ないし、「変更の依頼」であれば、その取り扱いは労使の自由になります。

この休暇の変更「申し込み」に労働者が応じて、同意の上で年休を変更しても、合意による変更であるから、問題はないといえます。

ただし、「申し込み」レベルである以上、労働者はそれに応諾する義務はないので、応じなかった場合は、当日は「年休」となります。

欠勤扱いや、不利益扱いすることはできません。

時季変更権の行使が認められた判例

時事通信社(年休・懲戒解雇)事件 最高裁 平成12.2.8

通信社の記者が申請した連続1か月の年休につき、後半2週間の限度に限り使用者の時季変更権行使が肯認され、当該期間につき勤務しなかったことを理由とする譴責処分の有効性を認めた最高裁判決の言い渡し直後に、記者会見において、会社を辞めるまで意地でも毎年1か月の連続した年休を取り続ける旨明言し、現に1か月の連続した年休を申請し、後半2週間についての使用者の時季変更権行使を受けても従わず、12日間勤務命令に従わなかったことを理由とする懲戒解雇を有効とした。

労働者が長期かつ連続の年次有給休暇を取得しようとする場合においては、それが長期のものであればあるほど、使用者において代替勤務者を確保することの困難さが増大するなど事業の正常な運営に支障を来す蓋然性が高くなり、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生ずるのが通常である。

労働者が右の調整を経ることなく、その有する年次有給休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定して長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をした場合には、これに対する使用者の時季変更権の行使については、右休暇が事業運営にどのような支障をもたらすか、右休暇の時期、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関し、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるをえない。

日本電信電話上告事件 最高裁 平成12.3.31

集合訓練期間中の1日について労働者が年給請求した。会社が時季変更権を行使した。

東京高裁の判断

東京高裁は、会社の時季変更権行使を違法と判断した。

最高裁の判断

年給請求は事業の正常な運営を妨げると判断し、懲戒処分の適否を高裁に差し戻した。

使用者が当該請求に係る年休の期間における具体的な訓練の内容が、これを欠席しても予定された知識、技能の習得に不足を生じさせないものであると認められない限り、年休取得が事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使することができる。

日本交通事件 東京高裁 平成11.4.20

深夜タクシー運転手が、深夜乗務を拒否するために年休を取得した。

裁判所は、深夜乗務は、深夜のタクシー不足解消や労働時間の短縮という社会的・政策的要請にもとづくものであり、これを実施する必要性は高く、深夜乗務を拒否するために行った年休の時季指定は違法であると判断した。

ユアーズゼネラルサービス事件 大阪地裁 平成9.11.5

労働者による年次有給休暇の時季指定権の行使が休暇期間の始期に極めて近接してなされたため、使用者において時季変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかったようなときには、客観的に時季変更権を行使しうる事由があり、かつ、その行使が遅延なくされたものであれば、適法な時季変更権の行使があったものというべきである。

此花電々局事件 最高裁 昭和57.3.18

年休当日に請求された休暇について、当日に時季変更権を行使したことにつき、有効とされた。

中原郵便局事件 最高裁 平成4.1.24

3日間の年休につき、やむを得ない欠務者がいて本人が休むと必要配置人員を欠く場合

電々関東通信局事件 最高裁 平成1.7.4

勤務割による勤務体制がとられている事業場で通常の配慮では代替勤務者の確保困難な場合

新潟鉄道郵便局事件 最高裁 昭和60.3.11

他に年休取得者が多く、鉄道郵便車の服務の差繰りが困難な場合

千葉中郵事件 最高裁 昭和62.2.19

休暇等の欠務が多く許容人員をこえ補充措置困難な郵便業務従事者の場合

道立夕張南高校事件 最高裁 昭和62.2.19

期末テスト当日、学校長の不承認にもかかわらず年休を取った教諭の場合

国鉄動労静岡鉄道管理局事件 静岡地裁 昭和48.6.29

国鉄の職員に対し1泊2日の青年職員研修会への参加が命じられたが、これを拒否して年休を請求した事案

裁判所は、その研修が教務であり、研修を命じられた者が参加しないということになると、それだけで業務の正常な運営が阻害されるというべきである。したがって、年休を請求することが、客観的に事業の正常な運営を妨げる場合に該当する、と判断した。

時季変更を認められなかった判例

電々弘前局事件 最高裁 昭和62.7.10

(労基法は)使用者に対し、できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができる。

使用者として通常の配慮をすれば、勤務割表を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、配慮しないことは、時季変更事由にあたらない。


代替勤務者の確保

使用者として通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能であるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしなかった結果、代替勤務者が配置されなかったときは、必要配置人員を欠くことをもって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解されています。

反対に、代替勤務者の確保が困難だと客観的に認められる場合には時季変更権の行使が適法だとして許容されます。

なお、恒常的な要員不足により常時代替要員の確保が困難であるというような場合には、時季変更権は行使できないと解されます。(西日本ジェイアールバス事件 金沢地裁 平成8.4.18 名古屋高裁金沢支部 平成10.3.16)


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