改正労働基準法解説レポート

令和5年4月1日から、月60時間超の割増賃金率の引き上げが中小企業にも適用となります。
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退職前の年休消化

退職前のまとめ取り

退職直前の労働者が、年休権の行使を求めることがあります。

解雇の場合、労働者がその年休取得を申し出たとき、「当該20日間の年次有給休暇の権利が労働基準法に基づくものである限り、当該労働者の解雇予定日をこえての時季変更は行えない」(昭和49.1.11 基収第5554号) いう行政解釈がなされています。

これは、労働者の退職の場合でも同様であり、退職予定日をこえて時季変更権行使することはできません。

例えば、2週間後に退職したいと退職を申し出ている労働者が、残っている年休の10日間を取得して辞めたいという場合なども、その請求は認めざるを得ないと考えられます。

休暇を取得させないために即日解雇を通告する事業主もいますが、この場合、30日分の解雇予告手当を請求されることになります。

直前まで退職を秘匿し、有給休暇取得→退職という手段をとる労働者に対し、「ちゃんと引き継ぎができないなら、休暇分の賃金を支払わない」と使用者が反論し、賃金未払問題として相談機関に持ち込まれるというのは、お決まりのコースです。

休暇は与えなければなりませんし、賃金未払となれば労働基準監督署に申告される問題となります。

これに納得できない使用者が、在職中の労働者の起こしたトラブルをほじくり出して損害賠償請求する、次の就職先に悪口を言う、といった泥仕合になることもあります。

こういう不毛な消耗戦を招かないためにも、退職の引き際は、あまりごたごたしない方がスマートです。

使用者としては、引き継ぎに必要な日数分、退職を遅らせることができないか交渉する余地があります。

また、就業規則に「退職に当たっては所定の引き継ぎをしなければならない」という主旨に規定を設けることもできます。

ちなみに、退職時に残った年休に関しては「労働者の退職によって権利が消滅するような場合に、残日数に応じて調整的に金銭の給付をすることは、事前の買上げと異なるものであって、必ずしも本条に違反するものではない。」とされています。


退職直前の時季指定に対する時季変更権の行使

前述のように、労働者が退職時に未消化年休を一括して時季指定した場合、労働者が他の時季に年休を取得しえないときは、時季変更権は行使できません。

時季変更権の行使は、労働者が他の時季に年休を取得できることを前提としているからです。

ただし、会社側に有給休暇の利用を認める義務があるのと同じく、従業員側にも業務の引き継ぎ等を支障なく行う責任があるともいえます。

そこで、問題が解決しない場合などは、退職日をずらしたり、取得できなかった年休を金銭で補償するなどの方法で現実的な解決をすることとなります。


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