改正労働基準法解説レポート

令和5年4月1日から、月60時間超の割増賃金率の引き上げが中小企業にも適用となります。
法改正による新制度の導入方法について、詳しく解説したマニュアルを無料提供しています。
サンプル条文や改訂例を参考に、就業規則の改訂を行ってください。

固定残業手当(定額払)

実際の時間外手当が固定額を超えれば差額を請求できる

現実の時間外労働の有無および長短にかかわらず、一定時間分の定額の割増賃金を支給し、この他には時間外労働等に対する割増賃金を支給しない、いわゆる「固定残業制度」を導入している企業も見受けられます。

例えば「月間20時間分の時間外手当を含む」とか「1日1時間分の時間外労働割増賃金を含めて1日1万円とする」といった賃金の定め方がそれで、こういった決め方も割増賃金を支払っているものとして適法となります。

しかし、現実の時間外労働により発生する割増賃金が固定残業給を超えた場合に、固定残業給しか支給せず、それを超えた差額賃金を支給しないことは、違法になります。

このような場合、労働者は差額賃金を請求することが可能です。(関西ソニー販売事件 大阪地裁 昭和63.10.26、三好屋商店事件 東京地裁 昭和63.5.27)

まとめると、下表のようになります。

定額の時間外手当を示し 残業もその額の範囲を超えない 適法
定額を超える残業をさせ、差額を払わない 違法
時間外労働の上限を示し 残業もその額の範囲内に制限 適法
制限時間を超える残業をさせ、オーバーした時間の手当は払わない 違法
裁量労働などを制度化 制度の内容・導入の手順が適切で、みなし労働時間の管理が正しく行われている 適法
法定労働時間を超える残業があり 36協定が結ばれていない。割増賃金が支払われない。 違法

残業時間を規制しようとする場合には、残業手当に上限を設けるのではなく、36協定において可能な限り短かめの協定をし、その時間内で効率的に仕事を終えるようにするとともに、行わせた残業については、労働基準法所定の割増賃金を支払うようにするのが、正当な制度であるとえます。

テックジャパン事件 最高裁 平成24.3.8

人材派遣業に勤務する労働者が、使用者に残業代の支払を請求した。これに対し使用者側は基本給に時間外労働に対する割増賃金も含まれていると主張した。

最高裁は、基本給からは、通常の労働に対する賃金分と、時間外労働の割増賃金にあたる部分を判別できず、また、固定残業代を支払ったというには時間数並びに割増賃金額の両方が明確であることが必要とし、割増賃金の請求を容認した。

オンテック・サカイ創建事件 名古屋地裁 平成17.8.5

一律に支払われた業務推進手当について、会社側は時間外割増の一律払い分(45時間相当)を含むと主張したが、これが認められなかった。

労基署の是正勧告に従わなかったことも影響し、附加金および遅延損害金についても認められた。未払の割増賃金186万余円。附加金同額。

時効にかかっている賃金債権については、消滅していると判断された。

耐震システム研究所事件 東京地裁 平成15.8.7

高額な基本給等を支給する代わりに時間外賃金は支給しない旨の主張の合意は労働基準法第37条に違反し、仮に基本給の中に時間外手当が含まれているとしても、時間外手当に相当する部分が、基本給から明確に区別されていないから、同法に違反し、家屋調査員に時間外手当の請求を認容した原判決は相当である。

エヌズ事件 大阪地裁 平成15.7.3

基本給に残業手当が含まれていたとしても、労働基準法第37条の趣旨から、割増賃金部分が法定の額を下回っているか否かが具体的に後から計算によって確認できないような方法による賃金の支払いは、同条に違反する。使用者は実態どおりの時間外割増賃金を支払わなければならない。

ユニ・フレックス事件 東京地裁 平成10.6.5

労働基準法第37条の趣旨に照らすと、支払われた営業手当の額が同条に基づき算出する時間外割増賃金の額を上回るときは、営業手当の支払をもって同条に基づく時間外割増賃金の支払に代えたものということができるが、支払われた営業手当の額が同条に基づき算出する時間外割増賃金の額を下回るときは、原告はその差額の支払義務を免れないものと解するのが相当である。

関西ソニー販売事件 大阪地裁 昭和63.10.26

労働基準法第37条は時間外労働等に対し一定額以上の割増賃金の支払いを使用者に命じているところ、同条所定の額以上の割増賃金の支払いがなされる限りその趣旨は満たされ同条所定の計算方法用いることまでは要しないので、その支払額が法所定の計算方法による割増賃金額を上回る以上、割増賃金として一定額を支払うことも許されるが、現実の労働時間によって計算した割増賃金が右一定額を上回っている場合には、労働者は使用者に対してその差額の支払いを請求することができる。


ページの先頭へ