改正労働基準法解説レポート

令和5年4月1日から、月60時間超の割増賃金率の引き上げが中小企業にも適用となります。
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1ヶ月単位変形労働時間制で、どの部分が時間外になるか?

1ヶ月単位の変形労働時間制における時間外労働の考え方

変形労働時間制を設けたことによって割増賃金の支払義務がなくなるわけではありません。

1ヶ月単位の変形労働時間を決めた場合の時間外労働の考え方は、通常よりも複雑です。

労働時間は事前に決めておかなくてはなりませんから、「今日は忙しいから1日12時間働いてくれ」とか、「明日は仕事が少ないので4時間労働とする」という具合に、前日に翌日の労働時間を決めることは許されていません。

しかし、「あらかじめ始業・終業の時刻が特定されていること」を前提として判定すれば、わかりやすくなります。

たとえば、

(1) 1日について8時間を超える労働時間を特定している日については、その時間を超えた部分が時間外労働となります。
(2) 1週間について40時間を超える労働時間を定めた週については、その時間を超えた部分が時間外労働となります。ただし、ダブルカウントとなるので、(1)で時間外とした部分は除きます。
(3) 最後に、1ヶ月(又は変形期間内)であらかじめ決められた所定労働時間をこえた部分を時間外とします。ただし、ダブルカウントとなるので、(1)(2)で時間外とした部分は除きます。

変形労働時間の採用は、時間外手当の圧縮というメリットがある反面、このように管理は複雑となりますので、制度導入にあたっては、管理コスト面での検討も必要だといえます。

(例)

  • 変形期間が1ヶ月
  • 起算日毎月1日
  • 所定労働時間が月間で165時間の場合

変形労働時間の例

(1)は、1日についてみれば法定の8時間以内であり、1週間でも法定の40時間を超えておらず、1ヶ月でみても法定労働時間の総枠(171.4時間※注:30日の場合)を超えていないので、この週の所定労働時間を超えていても、法定時間外労働とはなりません。

(2)は、1日の法定労働時間の8時間を超えているので、法定時間外労働となります。

(3)は、(2)の部分を除いて1日8時間、1週40時間、1ヶ月171.4時間を超えていないので、法定時間外労働とはなりません。

(4)は、1日8時間を超えてないが、1週40時間を超えるため、法定時間外労働となります。

(5)は、所定労働時間(9時間)を超え、1日の法定労働時間も超えているので法定時間外労働となります。

(6)は、1日8時間、1週40時間、1ヶ月171.4時間を超えていないので、法定時間外労働とはなりません。

(7)は、1日8時間、1週40時間以内であるが、1ヶ月でみた場合は、所定労働時間と(1)(3)(6)(7)の合計が173時間となるため、1ヶ月の法定労働時間の総枠171.4時間を超えた1.6時間が法定時間外労働となります。

しかし、労働時間の一つ一つにこうした吟味を加えることは、非常に煩わしいことになります。

いちいち割増賃金の要否について細かく検討せず、設定された所定労働時間を超えて労働させた場合は、一律に割増賃金を支払うという取扱いが実務的には合理的であるともいえます。


労働時間の特定の程度

問:

勤務ダイヤによる1ヶ月単位の変形労働時間制を採用する場合、各人ごとに、各日、各週の労働時間を就業規則に定めなければならないか。

それとも、就業規則では、「始業、終業時刻は、起算日前に示すダイヤによる」とのみ記載し、起算日前に勤務ダイヤを示すだけで足りるのか。

答:

就業規則においてできる限り具体的に特定すべきものであるが、業務の実態から月ごとに勤務割を作成する必要がある場合には、就業規則において各直勤務の始業終業時刻、各直勤務の組み合わせの考え方、勤務割表の作成手続及びその周知方法等を定めておき、それにしたがって各日ごとの勤務割は、変形期間の開始前までに具体的に特定することで足りる。

(昭63.3.14 基発150号)

JR東日本横浜土木技術センター事件 東京地裁 平成12.4.27

変形労働時間の範囲内であれば、業務の都合や労働者の休暇・欠勤等による勤務割や始業・終業時刻の臨時的な変更については、当該就業規則に定める労働時間の変更の規定に従い、かつ事前に勤務表等の変更として明示して特定の上行われる限り、なお本条項に定める「特定」の範囲内と考えられるので差支えないと解される。


有給休暇計画付与日の取り扱い

問:

変形労働時間の導入を考えているが、期間内に年次有給休暇の計画付与日がある。

この日については、事実上勤務が割り当てられていないが、所定労働時間としてカウントすべきか。

答:

所定労働時間として取り扱う。

(厚生労働省労働基準局に照会)


変形労働時間(月あたり)の時間外計算例

1ヶ月単位の変形労働時間制の会社です。

40時間までは、1日に8時間以上働いても手当が付かないのはわかったのですが、給与の規定に

  • 時間外手当・・・午後10時までは勤務1時間につき基本給の0.8%
  • 深夜手当・・・勤務1時間に付き、基本給の1.00%
  • 休日手当・・・基本給の0.9%
  • 代休を与えた場合・・・基本給の0.25%に相当する額とし、振替休日の場合は支給しない

これは、文書化してあるのですが、違法ではないのでしょか?

給料が基本給のみとして法律で決まっている最低限の時間外の時給を計算した場合

午後10時までの勤務1時間
基本給(100%)/160時間(月4週を最低ラインとして)×1.25=0.78%
よって0.8%は合法
深夜手当
100%/160時間×1.5=0.9375%
よって1%は合法
休日手当
100%/160時間×1.35=0.8435%
よって0.9%は合法
代休を与えた場合
100%/160時間×0.35=0.21875%
よって0.25%は合法

ただし、基本給以外に職能手当や技能手当など○○手当が付いていた場合は、違法の可能性が高くなります。


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